研究課題/領域番号 |
22K04118
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
高橋 貞幸 山形大学, 学内共同利用施設等, 技術員 (10396559)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 空中超音波 / MHz帯域 / P(VDF/TrFE) / トランスデューサ / 音響整合層 / ポリエステル |
研究実績の概要 |
本年度は、主としてP(VDF/TrFE)圧電体の性能向上と音響整合層としてポリエステル材を用いたP(VDF/TrFE)トランスデューサの開発に重点を置いた。具体的な内容は、以下の①および②のとおりである。 ①圧電体の性能向上:現在用いているP(VDF/TrFE)(75/25mol%)の性能向上を昨年度に引き続き実施した。従来までは、P(VDF/TrFE)溶液を基板(電極と兼用の銅板)上に展開し、結晶化度が向上する熱処理を行っていたが、ある程度で電気機械結合係数(kt値)の上昇が停滞していた。この原因は、P(VDF/TrFE)の厚みによる影響と予想した。そこで、P(VDF/TrFE)膜の膜厚を薄くして熱処理を行いkt値の向上を試みた。膜厚100ミクロン程度のP(VDF/TrFE)圧電体を製作し、音響整合層としてポリエステル材を用いた場合のP(VDF/TrFE)圧電振動子のシミュレーションを行った。その結果、目的とする2MHzの超音波を効率良く出力できることが、判明した。このシミュレーションを基に、P(VDF/TrFE)圧電振動子を製作し、トランスデューサを製作した。この結果、測定(実測)値から効率の良いトランスデューサであることが判明した。 ②音響整合層(ポリエステル材)を用いたP(VDF/TrFE)トランスデューサの開発:上述①から5MHz用P(VDF/TrFE)圧電体(膜厚は約120ミクロン程度)に、ポリエステル材(約100ミクロン程度)を音響整合層として用いて、従来から実施している2MHz用P(VDF/TrFE)トランスデューサを開発し、その有効性検証した。 これらの結果から、音響整合材として現在のところポリエステル材が有効であり、また、ポリエステル材の厚みおよびバッキングプレートの厚みを変化させることで、かなり自在に周波数制御が可能であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、P(VDF/TrFE)圧電体の更なる性能向上のために、高電圧分極による評価も実施した。この場合、高電場(100MV/m)以上になると、P(VDF/TrFE)の絶縁破壊発生回数が上昇するため、P(VDF/TrFE)の膜厚を従来の200ミクロン程度から、約1/2の100ミクロン程度に抑制した。ここで、音響整合材(ポリエステル)100ミクロンを設けた場合のシミュレーションを行ったところ、共振周波数の大きい約5MHz以外にも、約2MHz辺りにバッキングプレートからの定在波が発生することが判明した。そこで、ポリエステル音響整合層を付加したP(VDF/TrFE)トランスデューサのシミュレーションを行ったところ、共振自体の大きさは、当然5MHzの方が大きいが、トランスデューサの効率(トランスデューサの挿入損失)は、2MHzの方が大きいことが判明した。このシミュレーションに基づき、実際にトランスデューサを製作し、効率を測定値したところ、シミュレーション結果と同じく、2MHzの送受信の方が5MHzよりも効率が優れることが判明した。特に、バッキングプレートおよび音響整合層を変化させることで、定在波(周波数制御)を用いることが可能となったことは大きい成果である。これらは、学会で発表済みである。このため、本年度の進捗状況をおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後(最終年度)の研究の推進方策として以下の3項目に重点を置く。 ①音響整合層としてポリエステル材が有効であり、これまで中々他のポリマー材やウレタン材などによる効率改善を図ることは出来なかった。しかし、最近の研究過程で、以前から有望とされていたシリコーン材を音響整合層として用ることが、可能となってきた。これは、P(VDF/TrFE)圧電体とシリコーン材間とで起こる、接着の問題(剥離)が、かなり解決されてきたことにある。現時点ではまだ開発途中であるが、予備実験ではポリエステル材を音響整合層として用いた場合と同等の性能をもつ、P(VDF/TrFE)トランスデューサであることが、観測できている。引続きシリコーン材の厚みや硬度なども考慮しながら、シミュレーション結果と合わせ、更なる音響整合層を付加した、高効率のP(VDF/TrFE)トランスデューサの開発を遂行する。 ②最近の研究過程で、超音波透過システムの位相回路部に、周波数の変化に伴う受信波の不具合部分が見つかった。この部分は、周波数(時間差)の信号が画像の分解能に影響を及ぼす重要な回路である。位相検出器を含め装置の改良を実施し、更なる分解能の向上を目指す。また、現在用いている、送信(連続)波に加え、任意波形装置によりFM変調波を作成し、分解能の向上が可能かを試みる(S/N比の向上)。 ③現在、画像装置の追加として送信用高周波増幅器を製作中である。これは、最終年度計画の高電圧用送受信兼用型透過方式(一つのトランスデューサ)による画像形成を行うためである。本装置に、本研究で開発したP(VDF/TrFE)トランスデューサを用いて、どの程度の物質の透過画像が可能かを検証する。また、分解能向上のために、2.5MHz~3MHzのP(VDF/TrFE)トランスデューサを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年(令和6)度分の機器保守契約(22,290円)が今年度内(令和5年3月)にきたため、次年度の分は、年度内の支払いができず令和6年度に繰り越した。令和6年度に契約の予定である。
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