研究課題/領域番号 |
22K04119
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
山口 克彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (30251143)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 放射性物質分布推定 / 放射線エネルギースペクトル / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、遠隔測定された放射線エネルギースペクトルデータおよび機械学習アルゴリズムを用いて、放射性物質の分布状況を精度よく推定できる解析システムを構築することにある。通常、機械学習では大量の学習データを入力して訓練する必要があるが、本研究では学習データをシミュレーションにより生成することにより、実際の測定では困難な多様なデータを準備することができる点が特徴である。本研究の成果は事故を起こした原子炉内の燃料デブリの様子や環境中に飛散した放射性セシウムの分布状況を知るために有用になると考えられる。 2023年度は前年度に進めてきた2次元に分散した放射性物質を対象とした基本モデルをもとに、3次元化への対応および欠損データがある場合の精度への影響を検証した。具体的には、3次元空間中に配置された放射性物質の位置特定を行うために、γ線エネルギースペクトルを検出する面を二重化し、放射線源からの広がりを認識させる手法の開発を進めた。これにより、奥行き方向の精度が向上することが検証されている。また、実際の原子炉周囲では配管などにより測定器が配置できない場所があることを想定し、検出面内の一部からγ線エネルギースペクトルデータを欠損させた上で推定を行っている。その結果、欠損エリアの面積増加に合わせて推定精度の劣化が見られたものの、その影響は線形性の範囲内であることが検証された。また1次元モデルではあるが、燃料デブリ収納缶を模した測定システムを構築し、本モデルの実用性を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元モデルを3次元に拡張して用いる際に、当初奥行き方向の放射性物質分布を推定することが難しかったが、検出面を多層にすることにより精度を向上させることができている。ただし、現状ではシミュレーションデータに基づく検証であり、実際に測定データを得る際に複数の距離にある多点測定が可能かどうかは今後検証していく必要がある。そのような観点からも実測できる位置に制限がある場合に、どの程度放射性物質分布の推定精度が低下するかを検証しておくことは重要であったが、結果として精度は測定点の量に線形的に対応しており測定点数の減少により急激な精度低下を起こすものではないことがわかった。 合わせて放射性セシウムと放射性コバルトを1次元上に配置した模擬的なデブリ収納缶を実験室内に設置し、シミュレーションおよび測定データを用いて、その放射性物質分布推定を行った。その結果、ステンレス管内にある放射性物質においても分布推定が行えることが検証できた。 なお、前年度に開発した測定データのスペクトルとシミュレーションデータのスペクトルをマッチングさせるための変換フィルターを用いて精度の高い放射性物質分布推定ができるモデルを対象とした特許出願を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
3次元に配置された放射性物質分布推定を実際の測定データを用いて行い、その推定精度を検証していきたい。そのために、今年度に放射性物質を1次元上に配置して検証した模擬デブリ収納缶を拡大し、直径を3倍にした管内での放射性物質の平面移動も含めた測定系を立ち上げる。この比較的1次元要素の強い実験系を対象モデルとして、収納缶長手方向から垂直に十字配置された4つのNaIシンチレーションスペクトロメータの間を長手方向に自動移動できる測定システムを立ち上げる。その上で、収納缶内に放射性物質に追加して遮蔽体を複数配置した状態で、測定データから放射性物質分布推定が行えるかを検証する。 更に、NaIシンチレーションスペクトロメータの配置を十字から非対称な位置に変更し、奥行き方向の精度を上げることができるか検証する。 また、これまでのモデルは数十cm幅の体系であるが、より広域に配置された放射性物質を念頭にして対象サイズの拡大を行い、実機に近づけた条件での検証を行う。その際にシミュレーションにおいて設定されるメッシュサイズを大きく取ることで学習データの増大を抑えながら、放射性物質分布推定における空間分解能の精度にどの程度の影響が出るのかも検証する。
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