研究課題/領域番号 |
22K04177
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
花田 貴 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (80211481)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 酸化ガリウム / ワイドギャップ半導体 / 表面構造 / 全反射高速陽電子回折 / 反射高速電子回折 |
研究実績の概要 |
酸化ガリウム(Ga2O3)はワイドギャップ半導体として有望なGaNやSiCよりさらに大きな4.8 eVのバンドギャップを持ちパワーデバイス材料として期待されている。本研究の目的はβ- 酸化ガリウム自体の持つ優れた特性から期待される潜在的なデバイス性能を限界まで引き出すために必要となる電極や誘電体との理想的な界面構造の実現を目指して、2種のIII族サイトをつβ- 酸化ガリウムの表面および金属やその酸化物との界面で安定となる原子構造はどのようなものか、どのような原子間相互作用によってそれらの構造ができるのかを解明することである。これまでに代表的な低指数面について真空中加熱で得られた清浄表面の全反射高速陽電子回折(TRHEPD)測定を高エネルギー加速器研究機構(KEK)・物質構造科学研究所・低速陽電子実験施設(SPF)で行った。従来TRHEPD実験では鏡面00反射強度の解析が主であった。本研究では、表面平行方向の原子座標の決定を可能にし、解析の信頼性も向上させる目的で、(1)複数の角度走査条件での回折パターン測定、(2)各回折パターン上の複数回折点の追跡と強度評価による角度依存強度曲線の取得、(3)複数回折点の強度曲線を計算で再現する表面原子構造の探索、という流れを確立することを目指している。(1)はSPFの装置で従来から可能であり、(3)について単斜晶であるβ- 酸化ガリウムをはじめとする任意の結晶構造の表面原子配列に対してTRHEPDと反射高速電子回折(RHEED)の動力学的回折計算ができるソフトを作成し公開した。さらに視射角走査と方位角走査の複合的な走査条件下での複数の回折点の強度曲線について、すべて同時に実験を再現できる原子構造をレーベンバーグ・マルカート法で探索するR因子最小化ソフトを作成した。今年度は(2)について00反射以外の回折点も追跡できるように拡張した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに酸化ガリウムの(010) 、(001)、(-201)面について真空中加熱で得られた清浄表面のTRHEPD測定を行った。視射角と方位角を走査して0.1度ごとに回折パターンを記録した。酸化ガリウムの各面方位の試料について真空中での最大加熱温度を順次上昇させ室温に戻してTRHEPD測定を行った。1000℃付近の真空中加熱により表面の炭素を取り除けることをオージェ電子分光で確認した。(010) ではバルクの2倍周期、(-201)面ではバルクの3倍周期の表面再配列構造が現れることを低速電子回折(LEED)、RHEED、TRHEPDで確認した。(001)面、(-201)面に比較して、(010) 面では良好なTRHEPDパターンを得ることができた。回折強度計算では酸化物などのイオン性結晶での原子散乱因子に対する補正項の導入も行い、実験結果との一致が改善されることを確認した。 昨年度は鏡面(00)反射強度の測定を行ったが、面内方向の表面原子座標を求め、解析の信頼性を高めるためには多数の回折スポット強度の角度依存性を測定することが必要である。この目的で、回折パターンに現れる任意の反射スポットの指数に応じて、回折強度がごく弱い入射条件でも、強度の強い条件でのスポット位置から入射方位角と視射角の変化に対する反射スポットの位置を推定・追跡してバックグラウンドを除いた積分強度曲線を求める作業を自動化するソフトを作成した。測定する試料の取り付け方などにより角度には多少の誤差があり、それを補正するようにパラメータフィッティングを行った。また、陽電子回折では入射ビーム強度が電子回折に比べかなり弱いため、入射ビームの空間および角度の広がりを大きくして測定している。その結果、強いBragg反射前後の回折スポットの追跡には入射ビームの広がりを考慮する必要があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように陽電子回折では入射ビーム強度が電子回折に比べ弱いため、入射ビームの空間および角度の広がりを大きくして測定している。これに起因して、隣接した回折スポットが近くなる長周期の表面構造では、回折スポットに重なりができる。そのためピークフィッティングして分離する必要がある。 次に、物理的な事前知識を活用して物理的に意味のある構造解析ができるように動力学的強度解析ソフトの改良を行っていく。β- 酸化ガリウムはバルク自体の構造パラメータが多い上に、真空加熱清浄表面では原子欠損などが誘起され未知のパラメータが非常に多くなる。そのためR因子で判定した最適構造が本当に信頼できるものであるか判断が難しい。必要に応じてシリコン表面などの既知の構造のTRHEPD構造解析を並行して行い、RHEEDとの比較などを行いTRHEPDの特徴を明らかにし、TRHEPDという実験手法と解析ソフトの発展と信頼性の確立を目指す。このように、酸化ガリウムに限らず、今後もTRHEPDによる表面構造解析全般の解析環境を整える必要がある。TRHEPDという手法を発展させた上で、β- 酸化ガリウムの清浄表面だけでなく、金属吸着表面などの構造解析を行う。 酸化ガリウムの真空高温加熱表面は単純なバルクの切断面では無く、ガリウムと酸素の表面原子欠損と原子変位が顕著であることが分かった。表面からの蒸発を防ぐ目的でガリウム雰囲気中での高温加熱を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ソフトウェアの作製と実験の解析に時間を要したため次年度使用額が生じた。次年度は陽電子実験施設などでの実験を行うための旅費と物品費、研究成果発表のために請求した助成金を使用する。
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