研究課題/領域番号 |
22K04192
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研究機関 | 熊本高等専門学校 |
研究代表者 |
木場 信一郎 熊本高等専門学校, 熊本高等専門学校(八代キャンパス), 特命客員教授 (80311116)
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研究分担者 |
伊豫 彰 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (50356523)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 頂点フッ素高温超伝導薄膜 / 多層型高温超伝導薄膜トポケミカル反応 / ペロブスカイト型銅酸化物高温超伝導 / 複合アニオン制御超伝導 / 酸素-フッ素置換複合アニオン物質 / 頂点サイトトポケミカル反応 / ペロブスカイト型銅酸化物薄膜 / トポケミカル反応フッ化物薄膜 |
研究実績の概要 |
【概要】 本研究は,多層型構造を特徴とする複合アニオン物質としての頂点フッ素(F)系高温超伝導体Ba2Can-1CunOy(O,F)2 (F-02(n-1)n,n:CuO2面の枚数)でn=3としたF0223薄膜において,トポケミカル反応を活用したピラミッド型頂点サイトの[O2-/F-]置換制御法を確立し,複合アニオン制御の効果と超伝導物性向上のメカニズムの解明を目的としている.2022年度は,「研究実施計画」に示した<1>-<4>のうち,「<1> CaF2-FアシストHE-PLD法における同時プロセスの最適条件」の探索により,F0223主相薄膜の成膜を主目標とした. 【研究の成果】同時プロセスとは,2つの基板上に成膜されたCaF2膜(或いはCaF2単結晶基板)をFアシスト源としてFを供給しながら,これらに挟まれたSrTiO3基板上にBaO2, Ca2Cu3Oy(O,F)2の交互パルスレーザー堆積(PLD)2層積層(HE-PLD法)により試料薄膜を成膜するプロセスであり,以下のような結果を得た. ①CaF2膜のPLD成膜におけるプロセス条件について,薄膜のX線回折(XRD),燃焼ガスクロマトグラフの解析結果から,基板温度,酸素圧の最適条件を得た. ②CaF2膜を用いた同時プロセス成膜試料では,超伝導転移と思われる抵抗率-温度特性が観測された.しかし,成膜プロセスが同一の薄膜で,転移開始温度(Tco = 54.8-58.4 K),ゼロ抵抗転移温度(Tce = 5.0 K付近)の良好な転移を有する場合と,Tco = 34.8 Kと約20 K低温側シフトが観測されるなど,特性のバラツキが認められた.XRD解析結果から,超伝導転移はF0245相によるものと考えられる.その原因として,HE-PLD膜とCaF2膜間のCa拡散が偶発した可能性が考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度同時プロセスについて判明した新たな課題及び過去の結果も合わせて,同時プロセスのFアシスト効果についてまとめると以下のような状況である. ①頂点フッ素超伝導薄膜としては,最高Tce=23.5 Kを有し,F0223相c軸配向にフィット率の高い多相膜を得ている.しかし,初期の結果から僅に向上が見られたに過ぎない. ②PLD酸素圧及びPLDに連続した熱処理の影響について,酸素ガス圧,熱処理時間を変化させた場合の薄膜の電気伝導性の依存性を確かめた.その結果,特に酸素ガス圧と電気伝導性の関係は,半導体相からゼロ抵抗超伝導相(Tce=17.3 K)に至るまで変化し,担体濃度に対するベル型分布を連想させる結果が得られた. ③HE-PLD膜とCaF2膜間のCa拡散が原因と思われるCuO2面数の増加(F0245相の出現)と高Tc相(F0223相)成長の抑制,Fアシスト効果の抑制などの問題が予想される. 特に③の新たな課題について,「今後の研究の推進方策」でも言及するが,有望な対応策として2022年度に整備予定であった「自動シャッター制御機構」を活用した逐次プロセスで前倒し対応が期待できた.しかし,本設備については,世界的な半導体の供給量不足と価格高騰により,経費と納期の両面で予期せぬ事態となり,整備が年度末となって完了するなど,稼働開始が2023年度に延期となったことも上記進捗状況とする理由として挙げる.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実施計画」の全体では,以下の<1>-<4>を目標としている. <1>CaF2-FアシストHE-PLD法 における 同時プロセスの最適条件の探索,<2>Fg-FアシストHE-PLD法(Fg; CaF2,CuF2)における逐次プロセスの最適条件,<3>Fアシストプロセスの確立,超伝導物性とドーピング機構の関係,<4>高Tc 相の臨界電流Jc と[O2-/F-]部分置換量の関係. 「現在までの進捗状況」で言及した同時プロセスの状況から,①-②は,同時プロセスによる知見として,今後に活用することとし,③について,ポテンシャルの高いF0223超伝導相を主相とする薄膜合成のためには,主にCa拡散によるCuO2面数の増加(F0245相の出現)防止とアニオン(F-)のみの供給制御を可能とすることが要求される.2023年度に目標とする上記<2>において,Fg-Fアシスト膜とHE-PLD薄膜の成膜プロセスをそれぞれマクスにより分離し,Fアシストのみを実現できる逐次プロセスを進めることにより,Ca拡散をカット或いは抑制した上で,Fアシスト効果を中心とした探索を可能とする. 今後の推進方策としては,2022年度まで用いた同時プロセスは,Ca拡散とFアシスト効果への有効性の再検討が必要となるため主目標から除外する.研究実施計画としては,2023年度より,「自動シャッター制御機構」を活用した同時・逐次プロセスへ移行し,基本的には当初の「研究実施計画」の<2>→<3>の順に推進する.
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