研究課題
令和4年度はイオン注入法によりセレンドープと窒素ドープ白金試料を作製し、スピントルク強磁性共鳴実験によるスピンホール角の評価を行った。セレンドープ試料においては、酸素ドープ白金(スピンホール角=0.23)に比べ、1/10のドープ量で0.25と大きな値を示した。窒素ドープ白金においては高ドープ試料でスピンホール角が減少し、ドープ量に対してピークを取る結果となった。これまでのイオン注入による酸素ドープ白金に加え、今回行ったセレンおよび窒素ドープ白金試料について、抵抗率とスピンホール抵抗率の関係を調べた。その結果、スピンホール抵抗率は抵抗率の2乗に対して線形的な増加傾向を示したことから、外因性散乱であるサイドジャンプ散乱が支配的になっていることが示唆された。この結果から、窒素ドープ白金におけるスピンホール角のドープ量依存性について検討するために、外因性散乱としてサイドジャンプ散乱を仮定することで、温度依存性測定結果からスピンホール効果を内因性散乱と外因性散乱に分離した評価を行った。その結果、窒素ドープ量の増加に従い外因性の効果が増加するのに対し、内因性が減少することがわかった。特に、高ドープ試料においては内因性が急激に減少しており、これによりスピンホール角の減少が生じていることを明らかにした。スパッタ時のアルゴンガスと酸素ガスの導入比を調整することで、スパッタ法による酸素ドープ白金試料を作製し、各種評価を行った。その結果、スピンホール角の電気抵抗率依存性について、イオン注入法による試料と同程度の抵抗率範囲においては同様の傾向が得られた。
2: おおむね順調に進展している
イオン注入法による新たなイオン種としてセレンや窒素ドープ試料を作製し、スピンホール角を評価した。また、内因性散乱と外因性散乱に分離することでスピンホール効果について検討を行った。さらに、アルゴンガスと酸素ガスの比率を変えて酸素ドープ白金を作製し、イオン注入による試料との比較結果を得ており、研究は順調に進んでいる。
イオン注入法においてはさらに別イオン種をドープし、スピンホール角の評価を行うことで、スピンホール性能の向上を図る。スパッタ法においては窒素ドープ白金を作製し、イオン注入法による作製試料と比較評価を行う。このとき、イオン注入試料と同様に内因性散乱と外因性散乱の分離評価を行うことで、両者の特性についてさらに調査する。また、磁化反転特性評価のための試料として強磁性材料との積層構造を作製する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Physical Review B
巻: 107 ページ: 064402/1-9
10.1103/PhysRevB.107.064402