研究課題/領域番号 |
22K04203
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
中岡 俊裕 上智大学, 理工学部, 教授 (20345143)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 直方晶テルル化銀 / 抵抗スイッチング / ラジオ波 |
研究実績の概要 |
本年度は申請書の計画スケジュールに沿って、直方晶AgTe成長条件の確立、埋め込み層の分離を実施した。 昨年開拓した2つの手法のうち,より多くの直方晶AgTeを作成できる手法2を用いた。手法2ではAg:Te=1:1のターゲットによるスパッタリングにより,直方晶AgTe作成する。熱アニールより埋め込み層Teの昇華除去を行った。SEM測定にて幾何学的な構造を,X線回折にて結晶相を評価した。Teの脱離は160度でも確認され,190度10時間では全Teが脱離した。一方,室温では六方晶Ag5Te3は存在しなかったが,実施した全アニール温度で六方晶Ag5Te3が観測された。これは準安定相である直方晶AgTeが六方晶Ag5Te3とTeへと熱分離したためと考えられる。次に,Te-richな環境におくことによりAg5Te3生成を抑える狙いで,Ag:Teを1:2に調整したターゲットによるスパッタリングにより直方晶AgTeを作製し,同様にアニール温度,時間依存性を調べた。室温では,六方晶Ag5Te3は存在しなかったが,アニール時には測定全条件で六方晶Ag5Te3の生成が確認され,本生成は周辺の組成に依存しないことがわかった。 物性評価として,導電性の評価をおこなったところ,予想外の抵抗スイッチ現象が観測された。一定以上の電圧で電流は電圧の二乗に比例し,Mott-Gurneyの式に従った。主要導電メカニズムは空間電荷制限電流であると考えられ,これに基づき,抵抗スイッチ現象はトラップ充填モデルにより理解された。 さらに抵抗スイッチング現象の安定化手法を探索し,RF印加後は抵抗スイッチングが安定し,導電性が向上することを見いだした。本解明のため,より基本的な材料であるため研究蓄積があり,熱電材料としても注目を集めるGeTeと比較を行った。同様の現象を観測し,派生テーマとして論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は,埋め込み層の分離,結晶サイズ増大,物性評価を進め,他の準安定相作成に取り組み始める予定であった。結晶相増大,および直方晶AgTeの正確な物性評価には埋め込み層の分離が必要と予想されるため,本分離を優先して行った。埋め込み層の除去には成功したが,昇温時に六方晶Ag5Te3が想定よりも低い温度で生成されることがわかった。この生成条件の調査に時間を要した。 また,物性評価として導電性の評価を行ったが,想定していなかった抵抗スイッチ現象を観測した。本現象の理解,対策には,これまで人工的に作製されたことがなく,その導電特性が未調査である直方晶AgTeの導電メカニズムを1から探索する必要が生じたため,これに時間を要した。主要導電メカニズムが空間電荷制限電流であることを見いだし,RF印加による抵抗スイッチングが安定化するという知見を得た。これらは新たな知見であり,本分野発展に寄与すると期待できるが当初のスケジュールとの比較で同上の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
埋め込み層Teの除去には成功したが,六方晶Ag5Te3の生成を伴うことが判明し,この完全な排除には至っていない。この解決に2つ方策を考えている。1つ目の方策は,より精緻なアニール条件の開拓や薬品との併用により,除去する研究である。これにより純粋な直方晶AgTeを得られれば本研究により開拓した手法により,正確な熱電性能の評価が可能である。もう1つの方策は,直方晶AgTe,六方晶Ag5Te3のcomposite熱電材料として探究,性能向上をはかる研究である。六方晶Ag5Te3も近年注目される熱電特性の優れた材料であり [X. Zhang et al., ACS Energy Lett. (2017)],composite材料として研究は興味深い。これら2方針を並行して進める予定である。新規に観測された抵抗スイッチング現象についても研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は埋め込み層除去条件の開拓に注力し,他の準安定相作成については2024年度に実施予定であるため,次年度使用額が¥50,293生じた。他の準安定相作成のための成膜消耗品に使用予定である。
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