研究課題/領域番号 |
22K04217
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
猪瀬 裕太 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 特任助教(常勤) (90634501)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 共鳴トンネルダイオード / 周波数コム / モード同期 / 自己注入 / テラヘルツ / 発振器 |
研究実績の概要 |
研究代表者が所属機関を移動したため、実験と計算を実施する環境が大きく変わることとなった。そのため、2022年度はこの研究課題に関する基礎的な部分からの研究を実施した。当該年度に実施した研究は、具体的には(1)印加するバイアス電圧に対して共鳴トンネルダイオード発振器の発振周波数が変化する要因の解明、(2)共鳴トンネルダイオード発振器への自己注入による発振周波数ジャンプの測定および等価回路による再現、の2つである。各項目における具体的な研究実績は、以下に示す通りである。 (1)共鳴トンネルダイオード発振器は、印加するバイアス電圧に対して発振周波数が変化する。その物理的起源については、共鳴トンネルダイオードを構成する半導体層構造が有するキャパシタンス成分がバイアスに対して変化するためであると考えられていた。しかしながら、等価回路モデルを使用した数値計算によって、共鳴トンネルダイオードが示す電流‐電圧特性の非線形性が主たる周波数変化の物理的起源となっていることを明らかにした。本研究の目的であるモード同期・周波数コムでは、発振周波数の多モード化と安定化が必要となるが、その周波数の決定要因を明らかにできた意義は大きい。 (2)共鳴トンネルダイオード発振器からの放射テラヘルツ波を反射させて発振器に戻した場合、すなわち自己注入系において、発振器への印加バイアスや反射体までの距離を掃引することで周波数が不連続に跳躍する振る舞いを確認した。これは、反射体との間で形成された縦モードへの引き込み効果として説明される現象であり、本研究の目的である発振周波数の多モード化に必要な条件の1つであると考えられるものである。また、等価回路モデルを用いた計算によって、実験で得られた周波数特性を定量的に再現することに成功し、これが縦モードへの引き込みに起因していることを計算によるアプローチからも確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究代表者が所属機関を移動したため、使用する共鳴トンネルダイオード発振器や実験装置、そして計算機やソフトウェアなど、研究環境が大きく変わることとなった。そのため、本研究課題の初年度である2022年度は、基礎的な部分からの研究体制立ち上げが必要となり、研究計画を大きく変更する必要性が生じた。それに伴い、改めて基礎的な部分からの実験・計算を行うこととなった。以上の理由から、研究の進捗状況としては遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、自己注入によって生じるモード同期現象に関する計算および実験を実施する。具体的には、以下に示す通りである。 (A)2023年度は数値計算を重点的に行い、モード同期に至る動作原理を理解する。数値計算では、時間領域における等価回路計算を実施する。自励発振する共鳴トンネルダイオード発振器を再現した回路に、時間遅延がついた電流源を追加することによって自己注入の効果を計算に導入することで、モード同期や周波数コムの発現条件を明らかにしていく。 (B)計算から得た知見に基づいて、モード同期や周波数コムが発現する条件を実験において検証する。光学実験では、共鳴トンネルダイオード発振器からの放射光を2つに分けて、一方で戻り光制御、もう一方で検出を行う。前者では、光学減衰器とミラー位置によって、自己注入比と時間遅延を制御する。また、共鳴トンネルダイオード発振器への印加バイアスも合わせて調整することによって、発現条件の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の初年度である2022年度は、研究代表者が所属機関を移動したため、使用する共鳴トンネルダイオード発振器や実験装置、そして計算機やソフトウェアなど、研究体制が大きく変わることとなった。そのため、基礎的な部分からの研究体制立ち上げが必要となり、研究計画が大きく変更することとなった。それに伴い、物品購入や学会発表の計画も修正を迫られ、次年度使用額が生じた。 これまでの研究経過から、特に数値シミュレーションを実施するための計算リソースの増強が必要であることが判明している。2023年度は、その拡充に物品費を計上する計画だが、総額は予定額の範囲内に収まる見込みである。
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