研究課題/領域番号 |
22K04236
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大平 昌敬 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (60463709)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マイクロ波フィルタ / 深層強化学習 / 自動設計 / 深層Qネットワーク |
研究実績の概要 |
深層学習によるマイクロ波帯域通過フィルタ(BPF:bandpass filter)の新しい設計方法を確立するために、本研究課題の初年度である2022年度は、入力を設計仕様値、出力を平面BPFの形状パラメータとするモデルを深層強化学習によって構築し、以下の研究実績を上げた。 (1) 深層強化学習を用いたBPFの設計技術のモデル化:現状のBPF設計の煩雑さから解放するため、深層Qネットワーク (DQN:deep Q network)を用いた構造パラメータの自動設計手法が検討されてきた。しかし、従来の手法では設計仕様が変われば一から学習し直す必要があった。それに対して本研究では、複数の設計仕様に対して自動設計が可能なDQNを構築するための強化学習手法を提案した。提案手法ではDQNの入力として、設計途中段階のBPFの結合行列のみならず、設計仕様から算出した理論特性の結合行列を新たに追加した。提案手法の有効性を示すため、共振器3段のマイクロストリップBPFを例に中心周波数2.90~3.09 GHz、比帯域幅4~6%の範囲で自動設計が可能なDQNを構築した。その結果、これらの範囲内で与えられる設計仕様であれば、大きく離調した周波数特性から設計をスタートしても自動かつ高速に設計仕様を満足する構造パラメータの設計値が得られることを示した。 (2) BPF高速特性計算のための代理モデルの構築:深層強化学習の学習時間短縮には高速なBPF特性計算が欠かせない。そこで、材料損失を含むSパラメータを学習データとして用いて電磁界解析の代理モデルを構築した。具体的には、畳み込みオートエンコーダ(CAE:convolutional autoencoder)を用いて入力の構造パラメータからSパラメータを出力するモデルである。これにより今後、材料損失をも考慮した設計技術のモデル化の見通しが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標である深層学習によるマイクロ波平面フィルタの逆設計法の確立に向けて、深層強化学習を用いたBPFの設計技術のモデル化やその手法の検証、ならびにマイクロ波BPFの高速特性計算のための代理モデル構築において研究成果を上げた。進捗状況は以下のとおりである。 (1) 深層強化学習を用いたBPFの設計技術のモデル化:DQNを用いたマイクロストリップBPFの自動設計ならびに設計技術のモデリングを目的に、複数の設計仕様に対しても自動設計が可能なDQNを構築した。異なる設計仕様を与えた場合においても提案手法によってBPFの自動設計に成功したことから、研究は当初の計画通り順調に進んでいる。また、その研究成果はすでに電子情報通信学会マイクロ波研究会や電子情報通信学会総合大会において発表している。 (2) BPF高速特性計算のための代理モデルの構築:材料損失を含むSパラメータとBPFの形状パラメータとを関係付ける代理モデルをCAEによって構築できることを示した。よって、本課題についても当初の計画通り順調に進んでいるものと考える。 このように研究は計画通りに遂行され、2022年度は概ね順調に研究は進捗したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
深層学習によるマイクロ波フィルタの自動設計技術の開発が順調に進んでいることを受けて、2023年度は2022年度に提案した手法の汎用化を主な研究課題として掲げる。特に、2023年度は以下の2点を推進方策とする。 (1) 深層強化学習を用いたBPFの設計技術のモデル化の研究開発:2022年度は深層強化学習で構築したDQNによって設計仕様を変更してもBPFの自動設計が可能であることがわかった。しかし、現在の手法では構造パラメータの変化ステップが離散値であったため、設計仕様として扱える周波数範囲が狭いという課題があった。2023年度は、2022年度の提案手法を連続値も扱える手法に拡張し、BPF設計技術のモデリング手法の汎用化を目指す。 (2) 逆畳み込みネットワークを用いたマイクロ波フィルタの自動設計技術の開発:2022年度はマイクロストリップBPFの高速特性計算において畳み込みオートエンコーダが適用可能であることを示した。2023年度はその逆問題として、逆畳み込みネットワークを用いて設計仕様から構造パラメータを出力する逆モデルを構築し、逆設計法の基礎検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内外での学会発表の旅費を計上していたが、当初の予定よりも旅費の支出が少なかったため、次年度使用額が生じた。次年度は学会での研究成果発表をさらに増やし、学会発表の旅費ならびに参加費の支出等に充てる予定である。
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