研究課題/領域番号 |
22K04267
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
日比野 誠 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (90313569)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 断面修復工法 / マクロセル腐食 / 再劣化 / 亜硝酸塩 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,塩害で劣化した鉄筋コンクリート部材に断面修復工法を実施した後に発生するマクロセル腐食による再劣化のメカニズムを解明し,有効な対策を提案することである.そのため初年度は,実験室内で断面修復工法を適用した部材を再現することを試みた. 断面修復工法は,塩害の劣化進行段階では腐食ひび割れが生じている加速期に適用される.したがって,同工法が適用される以前に部材が塩害で腐食している状況であるため,実験室でも事前にこの初期劣化を再現する必要がある.そこで塩化物イオン濃度の異なる鉄筋コンクリートブロックを作製し,これらを電気的に接続することで初期劣化を再現し,その後,塩化物イオン濃度の高い供試体ブロックを塩化物イオンの含まないモルタルブロックに置換えて断面修復工法の適用を再現することにした.結果として,初期劣化を施した供試体は,モルタル供試体に置換した直後に電位が急激に変化することが観測されたが,その後のマクロセル電流量は非常に小さいことが分かった. 初期劣化中,母材コンクリート中の鉄筋はカソードであるが,断面修復後,モルタルと接続されると塩化物イオン量の相対的な変化からアノードに変化するが,初期劣化期間中のカソード反応は,その後の腐食反応に影響を及ぼさないことが明らかになった.断面修復部は塩化物イオンを含まない低水セメント比のモルタルであるため酸素の供給が急激に減少し,カソード反応が抑制されたためと考えられる. あわせて,防錆モルタルを想定して亜硝酸塩を加えたモルタルを使用した場合,亜硝酸塩を含まないモルタルと比較して母材コンクリート中の鉄筋と接続後のマクロセル電流量が小さくなる傾向が観察された.一般には,亜硝酸塩は不働態被膜を再生する作用があると報告されているが,マクロセルのカソード側においてもその反応を抑制していることが示唆される結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた,塩害で劣化した鉄筋コンクリート部材に断面修復工法を適用した場合の腐食過程を実験室で再現することには成功している.しかしこの時系列に沿った再現実験に注力したため,人的リソースが不足し,亜硝酸イオンが断面修復材から母材中に拡散する過程を確認する供試体は準備できなかった.この実験は亜硝酸イオンの拡散速度が小さいため,長期の測定期間が必要で,できるだけ早期に供試体を準備する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
塩害で劣化した鉄筋コンクリート部材に断面修復工法を適用した電極反応の変化を再現することは可能であった.しかしその後のマクロセル再劣化を再現するまでには至らなかったため,その原因を追究する実験を計画している.とくにカソード反応が生じる断面修復箇所においてカソード反応を活発化し,アノード律速となる再劣化を再現するため,酸素の供給と消費を増大させる工夫を行う.具体的には,断面修復部に埋設する鉄筋の表面積を増大させる. 亜硝酸塩の防食効果については,従来からアノード反応を抑制するものと考えられていたが,今回の実験でカソード反応を抑制していることが示唆されったため,マクロセル腐食の律速状況を観察することで,亜硝酸塩がカソード反応に及ぼす影響をより顕著に表すことができると考えられる.したがって,接続前後の電位差とマクロセル電流量との関係から亜硝酸塩の影響を検討する. 亜硝酸塩を含む防錆モルタルの効果として,断面修復部から母材中に亜硝酸イオンが浸透し,母材中の鋼材のアノード反応を抑制する作用が期待されている.そこで塩化物イオンを含む母材コンクリートに亜硝酸塩を含む防錆モルタルを打ち継ぎ,母材中の鋼材の電位変化を長期的に測定することで亜硝酸イオンの母材への浸透を評価することを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であったマルイ社製モルタルミキサ(5L)は,半導体不足のため製作に必要な部品が確保できず,生産中止とのことで,結果的に購入を見送った.現状では,実験環境を一定に保つ恒温槽の容量で実験可能な供試体の員数が制限されるため,多くの実験ケースを実施するためにも購入設備をモルタルミキサから恒温槽に変更する予定である.今回の実験条件は一般的な環境(温度20℃,湿度60%)でこれを満たす恒温槽は在庫品であるため,購入可能と考えられる.
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