研究課題/領域番号 |
22K04276
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研究機関 | 一般財団法人日本建築総合試験所(試験研究センター) |
研究代表者 |
吉田 夏樹 一般財団法人日本建築総合試験所(試験研究センター), その他部局等, 室長 (00928046)
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研究分担者 |
中山 健一 一般財団法人日本建築総合試験所(試験研究センター), その他部局等, 主査 (60942711)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 下水管路 / セメント / ジオポリマー / 硫酸劣化 / 海水 / 塩酸劣化 / EPMA / デジタル画像相関法 |
研究実績の概要 |
下水管路では、下水から発生する硫化水素を起源として硫酸が発生し、コンクリートの硫酸劣化が生じる。大阪市内の沿岸部地域では、下水管路に海水が侵入し、硫酸劣化を促進させる可能性が懸念された。2022年度の研究では、海水の主要成分であるNaClを0.1mol/L 硫酸に添加し、セメント硬化体を浸せきさせた。その結果、NaClの添加量が多くなるにつれて、硬化体の劣化度合いは大きくなった。Clを2%添加した条件では、Caの溶脱が促進されて侵食速度が速くなり、硬化体表面では二水石膏が隆起するように生成して剥離した。Caの溶脱が速くなるのは塩酸による劣化、二水石膏が生成するのは硫酸による劣化現象の特徴であり、NaClが混ざると硫酸と塩酸の複合劣化が生じた。以上の結果は、沿岸部地域における下水管路の劣化メカニズムを説明できる重要な知見であり、下水管路の高耐久化や維持管理計画に役立つ。 加えて、コンクリートの補修・補強計画を立案するには、酸で劣化したコンクリートについて、深さ方向への劣化状況を診断することが重要である。2022年度の研究では、コンクリートの深さ方向への化学的変化と力学的変化を同時に捉えることを目的として、電子線マイクロアナライザ(EPMA)およびデジタル画像相関法(DIC法)により、硫酸劣化したジオポリマーおよびセメント硬化体を分析した。その結果、活性フィラーをフライアッシュおよび高炉スラグ微粉末の混合としたジオポリマーでは、表層に非晶質シリカ層が形成され、この層のひずみは圧縮載荷直後から大きくなった。活性フィラーをフライアッシュのみとしたジオポリマーでは、Na の溶脱は認められたが、ひずみ分布は健全部と同等であった。セメント硬化体では、圧縮応力度が増すにつれ、表層の二水石膏層のひずみが大きくなった。以上の結果は、下水管路コンクリートの診断技術に役立つ重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画において、2022年度は、海水が流入する下水管路を想定し、pH1の硫酸溶液にNaClを数水準添加した溶液に、セメントおよび「ジオポリマー」のペースト試験体を浸せきさせ、その成果をまとめる予定であった。予定どおりにセメントおよびジオポリマーの試験体を浸せきさせたものの、セメント試験体の劣化メカニズムを分析することに時間を要し、ジオポリマー試験体を詳細に分析するには至らなかった。なお、セメント試験体の分析結果は論文にまとめ、日本コンクリート工学会の年次論文集(採択済み)と国際会議(査読中)に投稿した。 セメント試験体のEPMA分析においては、400×400ピクセルの面分析を行い、合計16万点のデータをオープンソースプログラミング言語のpythonで解析する手法を構築した。これまではエクセルのマクロ機能を用いて解析を行い、解析速度が遅いことに課題があったが、pythonの使用により課題を解決した。 2022年度の研究において、酸劣化を生じた試験体について、化学的変化と同時に「物理的変化」を捉える課題が新たに生じた。この課題について、圧縮載荷中に撮影した試験体画像を対象として、デジタル画像相関法(DIC法)により局所的なひずみを評価することを試みた。DIC法はUSBカメラでとらえた画像をpythonで解析し、安価な手法を検討した。なお、本研究成果は論文にまとめ、日本材料学会のシンポジウムに投稿した(査読中)。 ジオポリマーの分析には遅れが生じたが、セメントの劣化メカニズムを明らかにすることができた。また、DIC法の検討を加えると、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度には、2022年度で分析が完了しなかったジオポリマーの分析および解析を進める。酸劣化については、pHによって劣化の速度が異なるため、当初予定していたpH2~3の酸性溶液の条件を加え、pHの影響を考察したいと考えている。 また、2022年度に分析した試験体については、主にEPMAによる各種元素の面分析および面分析データを使用した組成解析により化学的変化を捉えたが、2023年度には、その他の分析(粉末X線回折(XRD)、FT-IRなど)を加えてデータの信頼性を向上させたい。この検討により得られた成果は、海外のジャーナルに投稿したいと考えている。 さらに、これまでは実験的検討によって主に劣化メカニズムを考察してきたが、下水管路の維持管理においては、コンクリート製管路の将来的な劣化予測も重要になる。硫酸単独、または、硫酸および塩酸の複合劣化条件下におけるセメント系材料の劣化現象について、水素イオン、硫酸イオン、塩化物イオンなどの劣化因子の拡散現象を考慮したうえで熱力学的平衡計算を行い、コンクリート表面から深さ方向への相組成の経時変化をシミュレーションしたいと考えている。実験データと照らし合わせて、シミュレーションが妥当か否かを判断する。 これらに加えて、科研費とは別の取組みで、2023年度には、大阪市内の沿岸部において下水管路の現地調査を実施する予定である。科研費の実験データと現場データの相関関係を検証し、現場に役立つ知見を整理したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が発生しなかったため、研究に必要な物品購入に充てたが、10,909円の残金が生じた。2023年度における物品購入に使用する。
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