研究課題/領域番号 |
22K04281
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
蘇 迪 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (40535796)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 軌道評価 / 弾性軌道 / MBS-FEM手法 / 材料損傷則 |
研究実績の概要 |
本研究では、スマートフォンにより観測した営業車両の応答から軌道状態を推定し、繰り返し計測の精度を向上させるとともに、劣化数理モデルを用いた損傷の推移予測について検証を行う。本年度は、レールの継ぎ目を軌道形状として近似的に導入する手法で検討しながら、弾性軌道構造走行シミュレーションを構築した。 1.レールの継ぎ目は、曲げ剛性が低下する箇所であり、車両走行時には鉛直方向の衝撃的な応答が発生し、脆弱な部位となっている。本研究では、マルチボディシミュレーションソフトウェアのSimpackを利用して、継ぎ目形状をレールの形状変化としてモデル化する手法を採用した。継ぎ目の遊間・深さのほか、左右のレールの形状も含めてモデル化し、三角関数を用いて近似した。 2.スラブ軌道鉄道においては、道床とまくらぎ、まくらぎとレールの間、弾性支持のパッドが入っており、レール曲げ疲労や材料の摩耗に影響が生じる。本研究では、車両と軌道の動的相互作用を研究するために、軌道構造の弾性変形を考慮した高度な非線形車輪レール接触モデルを含む、列車-軌道システムの包括的なシミュレーションツールを使用した。このモデルは、SIMPACKとABAQUSを組み合わせて構築され、MBSとFEMを統合したシステマティックなモデリングを可能にした。 3.本研究では、軌道と車両の動的相互作用を考慮した振動解析を行い、金属材料の摩耗構成則に基づいて評価を行うことで、振動と損傷の相互作用効果、つまり凹凸の成長機構を解明することが期待される。本年度、Archardの摩耗理論をHertz理論とFASTSIMアルゴリズムと併用してレールの摩耗を計算した。Hertz理論は接触パッチの法線力計算の問題を解決するために使用され、FASTSIMアルゴリズムは主にクリープ力の計算に使用された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 本年度には数値モデルを提案し、数値解析結果に基づいて、軌道の弾性変形を考慮した軌道の動的特性を分析できる高度なMBS-FEM連成解析手法の構築まで行った。軌道構造の劣化過程は、同一の構造・材料特性でも、軌道における環境条件や施工時における品質、または使用条件により多様に異なることがある。その中で、特に軌道の劣化に直接関連する継ぎ目の通過や軌道構造の特性の再現に成功し、携帯情報端末を用いて、実用上問題のないレベルの軌道異常検知システムへの提案ができるようになった。 2.レール摩耗は、車両の走行によってレール頭部面に規則的な波長の凹凸が形成され、騒音や振動などの要因となっている。この問題を解決するために、レール削り取りを定期的に実施しているが、その成長機構や進展過程が未解明であり、根本的な抑制策は確立されていない。本年度に実装した振動-損傷の連成効果を利用して、金属材料の摩耗成長機構を解明することが期待されている。さらに、営業車両で測定した発生状況と理論解析結果を検証することで、成長機構に基づいた軌道構造の改良策や、進展過程に基づいた適正な維持管理方法の提案が実現できると期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
1.構築されたMBS-FEMシミュレーションツールをさらに高度化することを目指す。軌道変状以外の外乱については、曲線や勾配の通過、分岐器の通過など、各要因の影響を独立に調査する。振動学的なアプローチに加え、車両走行による振動応答特性とレール表面の摩耗との関連性を探索する。 2.実路線で走行試験を行い、提案した基礎的な評価手法を検証する。高精度なセンサーと携帯端末を用いて同時に計測し、様々な走行速度で多数の走行試験を行うことで、提案手法の精度検証および携帯端末の有用性の検証を行う。さらに、中小鉄道事業者の全線にわたり定量的な軌道状態指標を提供し、本開発に対するフィードバックを得られることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
現場計測は予定されているが、諸事情により実施は来年度となる見込み。
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