研究課題/領域番号 |
22K04311
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
片岡 沙都紀 北見工業大学, 工学部, 助教 (50552080)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 盛土内宙水 / 電気比抵抗探査 / 連続雨量 / 降雨継続時間 / 三次元浸透解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、盛土内に発生する「宙水」に関して、宙水形成要因を特定し、宙水による盛土安定性への影響を、盛土での現場調査、各種土質試験、および模型盛土による加振試験等を実施することで解明することを目的とする。令和5年度は、前年度に施工した実大盛土での各種計測を継続し、宙水の発生箇所の特定や、その後の消散過程について確認するとともに、梅雨期など比較的降雨が多い時期にて電気探査などを用いた盛土内浸透の状況をより詳細に検証していくことで、盛土内における飽和域の二次元分布を確認した。併せて、実大試験盛土を再現した浸透流解析を実施し、盛土内の浸透挙動の全体像に対する検討を行った。 1.初期含水比を変化させ、透水係数の不連続面を有した実大試験盛土に対してテンシオメーターや定期的な水位観測、挿入型RI密度水分計などの原位置試験を実施した結果、比較的降雨が多い際には不連続面を境界に局所的な帯水層を有すること、その後一定時間経過後には帯水層が消散していることといった一連の流れを確認することができた。その際、宙水の発生から消散までの時間には、連続雨量と降雨継続時間が大きく関係することを確認した。 2.降雨の前後に実施した電気探査の結果から、透水係数の不連続面を境界に比抵抗値に差を生じており、この部分で宙水が発生していることを確認した。また、降雨前後での比抵抗値の変化率を計算することで、宙水の発生場所を明確にとらえることができた。 3.実大盛土で得られたパラメータをもとに、三次元浸透流解析を実施した結果、宙水の発生場所やその後の消散までの過程が電気探査で得られた結果と一致していた。また、解析における盛土内部での流束ベクトル分布は、透水係数の差が大きい斜面下部で卓越していたが、この結果は実大盛土ののり面の湿潤箇所と一致していたことから、解析にて盛土内の宙水発生箇所を推定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究成果として以下の知見を得ている。 1)実大盛土での各種原位置計測により、透水係数が大きく異なる層において、その層境界上部に宙水とみられる高飽和度帯が形成されることや、盛土内に宙水の可能性があるときには、電気探査などの面的な調査を行った上で宙水の可能性を比抵抗により確認した上で、水位計、テンシオメーターなどといったモニタリングを行うことが有効的かつ効率的な手法であることを確認した。 2)原位置試験と解析の成果を併せると、宙水形成の内的要因としては浸透した降雨が集まりやすい、盛土の斜面下部において特に発生しやすいこと、宙水形成の外的要因としては、連続雨量と降雨継続時間が大きく関係することを確認した。 3)昨年度実施した模型盛土において、盛土内の浸透状況を再現して振動台を用いた加振試験を実施した。加振条件は2Hz、40波の正弦波で実施し、入力加速度は450Galと600Galの2ケースで実施した。その結果、宙水が出来ているような盛土内の帯水状況においても、600Galでは加速度計に異常値は見られず、のり面表層がわずかに崩壊する程度であった。模型盛土の規模や宙水の消散などが原因であると思われるが、実盛土においては例えば盛土の不連続面に水平ボーリングを打設するなど、仮に盛土内に宙水が形成しても消散できるような状況となっていれば、盛土全体の耐震性の著しい低下は防ぐことが可能であることが示唆された。 以上より、盛土内宙水の形成判定等を確認するための調査手法やその有用性について確認できたこと、宙水の形成要因を盛土の内的要因、外的要因の双方より検討できたこと、既設の盛土内に宙水が発生した際の盛土全体の耐震性に与える影響は、排水パイプなどの十分な対策を施すことによって対策可能であるといった知見を得た。したがって、現在までの進捗状況がおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、盛土内宙水の形成メカニズムに関して,内的および外的な面からの各要因に関する知見を得ることができた。最終年度となる令和6年度は、これらの知見をもとに、既設盛土を対象として宙水に着目した盛土の管理に必要な事項や調査手法などをまとめていくことを考えている。また、得られた成果は、関連する学協会にて発表・報告していき、宙水に対する知見を広く公表していく。 なお、今年度は宙水を有した模型盛土による加振試験を実施したが、試験結果を見る限りでは宙水の形成がただちに盛土崩壊への危険性に直結するわけではないことも示唆された。このため、令和6年度では、宙水と盛土安定性に関する関係性は過去の文献も含め、その必要性と対策基準について検証を進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度予定していた当該研究に関する研究打合せ(神戸)での実施を1回分、最終年度に見送ったため、その分の旅費(約10万円)が最終年度に繰り越しとした。 なお、研究打合せに関しては2024年11月に予定している。
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