研究課題
2022年度は、阿武隈川5地点(二本松、黒岩、伏黒、丸森、岩沼)、浜通り中部の河川3地点(新田川、請戸川、高瀬川)、浜通り南部の河川3地点(夏井川、藤原川、鮫川)において、それぞれ2回、1回、1回の出水イベントにおける採水を行った。このうち、阿武隈川5地点では懸濁物質の137Cs濃度は400~1600 Bq kg-1、溶存態137Cs濃度は1~6 mBq L-1であった。浜通り南部の河川3地点に、懸濁物質の137Cs濃度は70~500 Bq kg-1、溶存態137Cs濃度は0.2~3 mBq L-1であった。これらの値は、各流域における137Cs沈着量に応じたものであった。2022年度に得られたデータに加えて既存のデータを含めた、河川中137Cs濃度の時間パターンを支配する流域因子について解析を行った。137Cs濃度および見かけの分配係数Kd(懸濁物質の137Cs濃度実測値を溶存態137Cs濃度実測値で除した値であり、高いほど懸濁物質に137Csが相対的に多く含まれていることを示す)の平均値と有意な相関を示す流域因子は見出されなかった。しかし、地点ごとに137Cs濃度およびKdを懸濁物質濃度のべき乗式(Y=α X ^β)で近似し、各地点の流域面積との関係を見たところ、溶存態137Cs濃度とべき乗βの正負が流域面積1000 km2を境にして逆転していた。このことは、大きな流域では水流出ピーク時に溶存態137Cs濃度が低下し、逆に小さな流域では上昇する傾向があることを示している。これらの結果は、溶存態137Cs濃度の時間的パターンが流域のスケールに依存することを示唆している。今後行う出水イベント時の試料採水・分析結果を加えて、この原因の解明を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題においては、阿武隈川5地点(二本松、黒岩、伏黒、丸森、岩沼)および浜通り南部の河川3地点(夏井川、藤原川、鮫川)、浜通り中部の河川3地点(新田川、請戸川、高瀬川)において出水イベントの観測を計画している。このうち、阿武隈川、浜通り南部の河川3地点については採取を行い、分析が進捗している。そのほか、担当者との協議により、137Cs流出量計算のための水文データの整理、数値解析の準備も進んでおり、概ね計画通りに進捗している。
2023年度も出水イベント時の試料採取・試料分析を継続して行っていく。とくに阿武隈川と浜通り中部河川での試料採取を実施し、有効な解析ができるデータを取得する。並行して、炭素・窒素安定同位体組成などの137Cs以外の分析を行い、供給源の推定などの解析を行い動態解明に繋げていく。各地域における知見を取りまとめて公表した上で、流域間比較に基づくメタ解析を進める。
当初、夏季に共同研究者間での対面での打合せ・合同調査を予定していたが、コロナウィルス感染拡大状況により延期、オンラインでの打合せとした。2023年度中に再度合同調査を再調整予定である。
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