研究実績の概要 |
令和4年度は、高解像度マイクロ波放射計データ(MEaSUREs)による浸水域抽出手法について検討を行った。具体的には、複数の波長帯・偏波(19, 22, 37GHz帯、水平・垂直偏波)のマイクロ波輝度温度から算出される「地表面水指標」に基づく浸水域抽出能力の検証を実施した。なお本検討では、先行研究(Sakti et al., 2020)に倣い、地表面水指標として正規化周波数指数(NDFI)や正規化偏波指数(NDPI)を使用した。まず、各種災害統計などの水害記録をもとに近年の大規模水害(2019年10月,台風19号など)における浸水域実績(浸水被害の発生領域・箇所)のGISレイヤーを作成した。次に、この浸水実績データと衛星観測から得られる地表面水指標を重ね合わせることで、両者の対応関係を確認し、地表面水指標による浸水域の検出能力を検証した。さらに、浸水域付近の降水量・河川水位と地表面水指標の経時変化の対応状況を調査することで、衛星観測による浸水状況の時系列変化(拡大/縮小)抽出の可能性についても検討を行った。その結果、浸水域と地表面水指標値の高い領域の広域的な空間分布パターンは概ね良く対応しており、特に平坦地形の開地(農地など)において両者の間に良好な位置的対応が確認された。一方、2つの地表面水指標(NDFI及びNDPI)の分布パターンには差異が見られる部分も確認され、使用する波長帯・偏波や対象地の地形・地被によって浸水域抽出能力に違いが出ることが示唆された。さらに、現在運用されている4基の衛星による上昇/下降軌道の観測データを活用することで、浸水域の時間的な変化を抽出できる可能性が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、下記1)を継続するとともに、2),3)の検討を開始する。 1) MEaSUREsを用いた浸水域抽出手法の検討:地表面水指標に基づく浸水域抽出手法の検討を継続する。特に、対象地点の地被・地形的特徴に応じた浸水域抽出に適する地表面水指標の選択基準や浸水域抽出精度の限界を明らかにする。 2) 浸水域分布のダウンスケーリング手法の検討: MEaSUREsデータから抽出される浸水域分布情報を、地形や高解像度衛星情報などのサブピクセルスケールの特徴量を用いて高解像度化する技術について検討を行う。具体的には、高解像度数値地形情報から算出されるピクセル内の標高や地形指標の分布、浸水実績をもとに、MEaSUREsデータから抽出した数km解像度の浸水域分布から数10~100m解像度への空間的ダウンスケーリングを目指す。 3) 流域洪水氾濫モデルの校正・検証への応用: 数千km2程度の河川流域を対象とした洪水流出氾濫モデルのパラメータ同定や検証への利用可能性を検討する。なお、本検討では流域スケールの降雨-流出現象及び浸水氾濫の同時解析が可能で、近年国内外で多くの適用事例が報告されている降雨-流出-氾濫解析モデル(RRIモデル; Sayama et al., 2012)を使用する。ここでは、先の検討項目1), 2)に基づくMEaSUREsデータによる浸水域分布及び時間変化の抽出精度を勘案しながら、浸水面積の時間的な増減傾向と河川流量(ハイドログラフ)の両方がバランスよく再現されるようなパラメータ同定方法を開発を目指す。
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