研究課題/領域番号 |
22K04328
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
石平 博 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (80293439)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | マイクロ波放射計 / 浸水域 / 洪水氾濫モデル |
研究実績の概要 |
1) MEaSUREsを用いた浸水域抽出手法の検討:令和元年東日本台風を解析事例として、高解像度マイクロ波放射計輝度温度データ(MEaSUREs)から地表面水指標NDFI及びNDPI算出し、実際の洪水浸水域との対比を行った。その結果、いずれの地表面水指標においても、浸水被害のあった沿岸部及び関東内陸部で値が高くなる傾向が確認された。また、洪水イベント前の基準日と洪水発生時の地表面水指標の差分を取ることで、水田や河川といった晴天時にも存在する水面を考慮したΔmNDFI及びΔmNDPIと実際の浸水域と比較した。その結果、浸水が確認された地点でΔmNDFI値が高くなることが確認され、ΔmNDPIでは関東内陸部のみ値が高くなっていた。洪水警報の危険度分布(キキクル)と地表面水指標の空間分布を比較した結果、キキクルの値が高い地点とΔmNDFIの高い位置が一致していたが、ΔmNDPIでは関東地方でのみ一致していた。 2) 浸水域情報の空間的ダウンスケーリング:令和元年東日本台風を対象として、非浸水時の水面被覆率と地表面水指標の関係をモデル化し、これを用いて洪水発生前後での地表面水指標の変化から浸水による水面被覆率の増加分を推定する方法を開発した。さらに、標高などサブピクセルスケールの分布情報を用いた浸水域分布のダウンスケーリング手法の検討も開始した。 3) 流域洪水氾濫モデルの校正・検証への応用:数千km2程度の河川流域を対象とした洪水流出氾濫モデルのパラメータ同定や検証への利用可能性の検討を開始した。サブサハラ地域に位置するNakamba流域を対象として、降雨-流出-氾濫解析モデルによる浸水域の再現結果とMEaSUREsから得られる地表面水指標NDFI及びNDPIの空間分布を比較し、両者の空間分布パターンの定性的な対応関係を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り、高解像度マイクロ波放射計データ(MEaSUREs)による浸水域抽出手法について検討を行い、広域的な浸水状況を把握する方法を確立するとともに、使用する指標(NDFI, NDPI)の特性を把握することができた。また、浸水域分布情報の空間的なダウンスケーリング方法についても、地表面水指標からピクセル内の浸水域面積率を推定する手法を開発するとともに、ピクセル内の浸水箇所推定手法についても検討を開始することができた。さらに、衛星観測情報の洪水氾濫モデリングへの応用についても当初計画通りに開始することができた。以上のことから、現在までの研究の進捗状況は概ね順調と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、下記1),2)を継続するとともに3)の検討を開始する。 1) 浸水域分布のダウンスケーリング手法の検討: MEaSUREsデータから抽出される浸水域分布情報を、地形や高解像度衛星情報などのサブピクセルスケールの特徴量を用いて高解像度化する技術について検討を行う。具体的には、高解像度数値地形情報から算出されるピクセル内の標高や地形指標の分布、浸水実績をもとに、MEaSUREsデータから抽出した数km解像度の浸水域分布から数10~100m解像度への空間的ダウンスケーリングを目指す。 2) 流域洪水氾濫モデルの校正・検証への応用: 数千km2程度の河川流域を対象とした洪水流出氾濫モデルのパラメータ同定や検証への利用可能性の検討を継続する。具体的には、MEaSUREsデータによる浸水域分布及び時間変化の抽出精度を勘案しながら、浸水面積の時間的な増減傾向と河川流量(ハイドログラフ)の両方がバランスよく再現されるようなパラメータ同定方法を開発する。 3) 都市流出モデルの校正・検証への応用: MEaSUREsデータから抽出される日内変動も含む浸水域の時間変化とモデルにより推定される浸水域の時間変動との対応に基づくモデルパラメータ同定を試みる。また、過去に発生した様々な規模(ピーク流量)の洪水に対して同様の解析を行うことで、よりロバストなモデルパラメータ同定を可能にする。本年度は、都市域の降雨-流出解析モデルや雨水貯留浸透サブモデルのセットアップを開始するとともに、都市域における地表面水指標データの整備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度予算で衛星データ処理を担当する技術補佐員雇用のための人件費を計上していたが、データ処理の一部自動化が実現され、この分の人件費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。翌年度(令和6年度)分予算は当初計画通りに使用するとともに、この次年度使用額は、モデル計算及びその入力・検証データ整備に関する作業の技術補佐員雇用経費と研究成果発表のための旅費として使用する予定である。
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