研究課題/領域番号 |
22K04357
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
松本 幸正 名城大学, 理工学部, 教授 (30239123)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | デマンド交通 / コミュニティバス / 階層型ネットワーク / 乗り継ぎ / サービス水準 / GTFS |
研究実績の概要 |
本研究では,はじめに,A地点からB地点へのバスでの移動に関するサービス水準を表す総合指標を,GTFSを利用して構築する.続いて,多様な交通手段で構成されるネットワークへの拡張を行う.そのため多様な交通手段で構成される階層型ネットワークを想定したWEBアンケートを実施して,他手段への乗り継ぎも含めた移動のサービス水準を表す指標を構築するとともに,利用者数を予測するモデルの開発を行う.さらに自治体アンケートを行い,自治体の地域特性に照らした地域公共交通網の相応しさのランクをAIによって判定するシステムを開発することを目的とする. 令和5年度は,階層型ネットワークを想定したWEBアンケートの代わりとして,オンデマンド交通を導入している愛知県岡崎市,豊明市,三重県亀山市を対象として,オンデマンド交通の登録者を対象とした紙面でのアンケートを実施した.鉄道や路線バスへのアクセスとしての利用が想定されるオンデマンド交通の利用者には高齢者が多く,WEBアンケートでは必要な回答数が得られないと判断したため,紙面でのアンケートに変更することにした. 本アンケートでは,個人属性に加えて,日頃の移動状況,オンデマンド交通の利用状況,オンデマンド交通導入による効果,さらには,オンデマンド交通とバスとの乗り継ぎに関する許容水準を調査した.その結果,オンデマンド交通とバスの乗り継ぎ意向を個人属性別に把握し,また,乗り継ぎ利用をするにあたっての重要要因が待ち時間であることなどを明らかにした.これらの結果のうち,まずは愛知県豊明市のデータを用いて,オンデマンド交通とバスとの乗り継ぎ利用率をロジットモデルで推定し,主要目的地となる市役所,主要医療施設,大規模商業施設への乗り継ぎ利用率が地区別で把握できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度に実施を見送ったWEBアンケートは,対象者が高齢者であることからWEBアンケートでは十分な回答数を得るのは難しいと判断し,自治体の協力を得ながら郵送配布・郵送回収による紙面のアンケートに変更して実施した.その結果,乗り継ぎを含めたバス停間ODの利用率のモデル化が行え,遅れをほぼ取り戻すことができた.ただしそのモデル化はまだ愛知県豊明市のみに留まっており,普遍的なモデル構築までには至っていない. 並行して,令和4年度から先行的に開発を進めてきた支線等への乗り継ぎを含んだA to B間の需要予測のために用いるマルチエージェントシミュレーションにも進展が見られた.令和5年度に開発したマルチエージェントシミュレーションでは,定時定路線のコミュニティバスとオンデマンド交通の乗り継ぎ利用をシミュレーションすることに成功し,トリップに基づく平均待ち時間,平均移動時間,利用率等の各指標が算出できるようになった.このシミュレーションにより,コミュニティバス路線を効率化し,バス停勢圏から離れた地点からはオンデマンド交通を利用してバス停までアクセスするようなシステムの評価が行えるようになった. 以上のことから,乗り継ぎ利用率のモデル化が一部の自治体に留まっているものの,マルチエージェントシミュレーションの開発は前倒しで進めることができていることから,”(2)おおむね順調に進展している”と自己評価することにした.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に実施したオンデマンド交通登録者を対象とした3自治体のアンケートの結果を用いて,普遍的な乗り継ぎ利用の推定モデルを完成させる.これにより,乗り継ぎを含めたA to B間のサービス水準の定量化が行え,特に地域特性を反映するためにGISで表現できるようにする. 令和6年度には,停留所までの徒歩アクセスに着目し,徒歩,支線交通,幹線交通の多手段階層型地域公共交通網における移動の実態を把握するとともに,必要とするサービス水準を明らかにするためのWEB調査を実施する.この結果を基に,停留所までの徒歩の環境を反映した多手段階層型地域公共交通網におけるA to Bのサービス水準の定量化を試みる. 自治体を対象としたアンケートも実施する.このアンケートでは,各自治体で導入している交通サービスと実態,さらにはその課題を把握する.この結果は,相応しさランク判定の基礎情報となる. マルチエージェントシミュレーションの深化も進める.令和6年度は,オンデマンド交通において相乗りが可能なようにモデルを進展させる.また,運営者の視点として,運行経費の比較が行えるように指標を拡張する. これらの結果をAIによって学習させ,地区特性ならびに交通特性を入力することによって,地域公共交通網の相応しさのランクをAIによって判定するシステムを開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は718,822円(令和4年度は962,698円)である.これは,令和4年度に予定していた学会参加ならびにWEBアンケートの実施をコロナ禍の影響で見送ったことによる次年度使用額が積み残ったことによる.令和5年度には2件のWEBアンケートを予定していたが,1件の郵送アンケートに変更になったことも関係している. 次年度使用額718,822円は,当該年度に請求した助成金600,000円と合わせて,国際会議参加,国内学会参加,1件のWEBアンケートと1件の自治体アンケートの他,謝金やその他の経費として使用し,研究年度終了時点では当初の計画通りの使用になる予定である.
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