研究課題/領域番号 |
22K04381
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
貫上 佳則 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (90177759)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 下水汚泥 / 付着物 / 融点 / 熱力学平衡計算 / 組成分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,下水汚泥焼却温度(約850℃)における下水汚泥焼却灰の付着性や粘性に関する性状を,各下水処理場の分析室でも簡便に測定できる新たな試験方法と試験条件を提示するとともに,実試料を用いた適用性を評価することである. 2年目の2023年度は,下水汚泥中の溶融物の粘性を調べるための簡易試験法を開発することが当初の計画であったが,初年度に考案した試験方法で得られた実下水汚泥中の付着物量の割合(以後,付着物割合)の再現性を改めて確認したところ,耐熱金属箔(以降,耐熱箔と略す)を繰り返し使用すると測定結果の再現性が大きく低下することが新たな課題として浮上した.耐熱箔は試験後に表面を洗浄した上で再使用していたため,耐熱箔表面の洗浄方法についても検討したが,耐熱箔表面に付着している直前の試料を確実に除去できる方法を見いだせず,やむなく,毎回新しい耐熱箔を用いることとした.ただし,試験実施上のコストを考えて,より安価な材質の耐熱箔を用いることと,用いる耐熱箔が800~900℃の高温状態で表面が酸化されて重量変化するため,試験前に予備加熱を複数回行うとともに,耐熱箔自身の重量を把握するためのブランク箔(下水汚泥試料を乗せないもの)も同時に電気炉で加熱し,耐熱箔自身の重量変化量を考慮するように試験手順を変更した. その結果,本試験で得られる付着物割合の再現性はやや向上したものの,DTAで得られた各試料の溶融物量の割合(以後,溶融物割合)との相関係数はあまり改善せず,低いままであった.ただし,複数の実試料(下水汚泥試料)で試験をした結果,溶融物割合が高くて閉塞トラブルを発生しやすい試料は,本試験方法の付着物割合が20%以上であることが判明した.一方で,本試験法による付着物割合が約60%と高いものの,溶融物割合は低い試料が複数存在することも判明した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に当たる2022年度には,数種類の試験方法の中から耐熱箔と電気炉を用いた方法を考案し,この試験方法と試験条件について検討した結果,研究目的に合致した簡易試験方法とその試験条件を絞り込むことができた.また,この方法で測定した付着物割合と,DTAで得られる溶融物割合や融点との相関を調べた結果,下水汚泥に含まれる付着物割合と溶融物割合との間に弱いながら正の相関関係を見出した. 2年目の2023年度は,「研究実績の概要」で述べたとおり,下水汚泥中の溶融物の粘性を調べるための簡易試験法を開発することが当初の計画であったが,初年度に考案した試験方法では得られる付着物割合の再現性が大きく低下するという新たな課題が浮上したことから,その対策を2年目に検討せざるを得なくなった. この原因は,耐熱箔を繰り返し使用していたため,試験後に箔表面に付着した試料を完全に除去する方法を見いだせず,毎回新しい耐熱箔を用いて試験することに変更した.そのため,より安価な材質の耐熱箔を用いることと,加熱前後の耐熱箔自身の重量変化量を把握するためにブランク箔を用いるように試験手順を変更した.その結果,再現性がやや向上したものの,DTAで得られた溶融物割合との相関係数はあまり改善しなかった.ただし,複数の実試料で試験をした結果,DTAで溶融物割合が多く,閉塞トラブルを発生しやすい試料は,本試験方法の付着物割合が20%以上であることが判明した.一方で,本試験法による付着物割合が60%と高いものの,DTAによる溶融物割合が低い試料が複数存在することも判明した. また,開発した試験方法の実試料への適用性については3年目に実施する計画であったが,試験方法と試験条件の開発段階から実試料を用いて適用性を確認している. 以上の点から,進捗状況はやや遅れていると判断している.
|
今後の研究の推進方策 |
「現在の進捗状況」で述べた通り,当初の研究計画では,最終年度の2024年度に実試料を用いた簡易測定法の適用性を検討することとしていたが,実試料の付着性のための簡易分析法とその試験条件については初年度と2年度に既に実試料を用いた適用性も含めて検討している. そこで,最終年度である2024年度には,①前年度に判明した課題,すなわち本試験法による付着物割合が60%以上と高いものの,DTAによる溶融物割合が低い試料が複数存在することについて再度検討するとともに,2年目に実施予定であった,②下水汚泥の高温条件下での粘性を評価する簡易試験方法とその試験条件についても,実試料を用いて検討を試みる.①については,加熱・冷却後の耐熱箔表面の粉末(即ち,800~900℃で溶融せずに粉体のまま存在していたと考えられる粒子成分)の除去方法を再検討する.現状は,超音波振動を一定時間与えて除去しているが,超音波振動の出力と振動時間を変化させることでどの程度改善できるかを検討する.②については,当初の計画通り,耐熱箔を傾斜設置させた場合の角度に絞り込んで,溶流長さとの関係を調べる予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、2023年度に試料を高温状態にした場合の粘性を調べる計画であったが、初年度に開発した付着性の判定方法を開発する段階で、大きな課題が浮かび上がった。そのため、2023年度は付着性の判定方法の改善を第1優先として研究を進めた。その結果、より安価な方法で判定方法を提案する事はできたが、当初計画していた試料の粘性の試験方法を開発する時間的な余裕がなくなり、やむなく、試料の粘性の試験方法については最終年度に実施することに計画変更した。これらの計画変更のため、2023年度の使用金額に残額が発生することになった。 ただ、計画変更した内容(粘性の試験方法の開発)については、最終年度に実施する予定で計画していることから、2023年度の残額については翌年度(2024年度)に繰越す計画としている。
|