研究実績の概要 |
2023年度は,旧基準で建設された鉄骨造小規模住宅で見られる柱梁接合部のディテールを再現した試験体の構造実験と, 耐震性能評価を行った。試験体のパラメータは梁端仕口部の隅肉溶接のサイズであり,目標脚長をそれぞれ25 mm, 50 mm, 75 mmとしている。加えて,目標脚長を75mmとしつつ日の字カバープレートを設置した試験体も1体加力した。実験結果とその分析により,以下の項目が明らかとなった。1)溶接のサイズを増加させると試験体の曲げ強度や変形能力は増加した。また, 日の字CPLの設置によってもさらに曲げ強度が増加した。2)早期に溶接破断した(目標脚長25mmと50mmの)試験体については, 溶接破断に基づく強度式による評価でも曲げ強度を過小評価した。これはダイアフラムの不在による応力負担の偏在によるものと考えられる。 3)局部曲げが卓越した(同75mmの)試験体については既往の理論式により, 実験で得られた強度を概ね適切に評価できた。日の字CPLと大きな溶接サイズにより梁フランジ全体で曲げに抵抗できた(同75mmに加えて日の字CPLを設けた)試験体については、全塑性モーメント評価式に実材料強度を適用した結果, 実験における最大曲げモーメントを適切に評価できた。4)いずれの試験体も, 診断実務で用いられる式による評価結果の2倍以上の強度を示した。 2023年度には,上記に加えて能登半島地震の被害調査を実施した。調査地は七尾市と穴水町であり,外観から確認できる旧基準鉄骨造建築物の構造被害を探索した。その結果,鉄骨造建築物の被害は木造建築物のそれと比較して軽微なものが多く,外壁等の落下は見られるものの構造被害は全体的に軽微であることが分かった。特に穴水町の市街地では,周囲の木造建築物の多くが全壊・倒壊している場所においても構造的にはほぼ無被害の鉄骨造建築物が見られた。
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