研究課題/領域番号 |
22K04467
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
今西 一男 福島大学, 行政政策学類, 教授 (40323191)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 都市計画 / 都市縮減社会 / 地域自治組織実行型地区計画 / 地区再編型区画整理 / 減容化 |
研究実績の概要 |
都市縮減社会において遊休化した土地の管理と活用への関心は高いが、行政の政策や企業の投資の対象となる土地は限られる。そこで本研究では開発ポテンシャルの低い住居系市街地を対象に、①合意を前提に住民が土地の管理を実行する「地域自治組織実行型地区計画」、②①に基づいて土地の交換・分合による活用を実行する「地区再編型区画整理」、③以上の目標となる地区の範囲及び生活行動の「減容化」の可能性の3点を検討する。 本研究は研究期間3年間を半年ごとに1ステップ(段階)とし、6ステップで進捗する。各ステップで3点の目的それぞれを取り上げるが、2022年度は初年度ということで基礎研究となるステップ1・2を実施した。 ステップ1:本研究は同じく基盤研究(C)として実施した前研究「都市縮減社会における住居系市街地の減容化に向けた換地と地域自治組織に関する研究」(2019-2022年度)からの継続研究である。そこで前研究をふまえ、②については区画整理の柔軟な換地に関する既存制度の把握・検討、③についてはこれまでに規定した減容化の概念の再検討を行った。そして特に注力したのは①である。前研究の最終段階で地方都市59市を抽出、そののべ100地区計画を対象とした「ニュータウンにおける地区計画の見直しと住民参加に関する調査」を実施しているが、その分析が中途になっていた。そこでステップ1では地域自治組織実行型地区計画に至る可能性がある、地区計画見直しの動向について整理を進めた。 ステップ2:ステップ1を進めたところ、住居系の制限を強化した地区計画見直しの事例を把握することができた。そのなかでも共同住宅の制限、土地利用促進(敷地面積)の制限の二つを強化した名取市相互台地区を抽出した。そこで同地区に関して現地踏査並びに自治体(名取市)担当者及び地域自治組織(自治会)代表への聞き取り調査を行い、考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は初年度ということで基礎研究となるステップ1・2を実施した。そのなかで前研究から引き継いだ「ニュータウンにおける地区計画の見直しと住民参加に関する調査」の分析、並びに地域自治組織実行型地区計画に至る可能性がある事例として名取市相互台地区を抽出し現地調査を行うことができた。すなわち、本研究の目標①については一定、進捗したと考えている。 一方、目標②③について、それぞれステップ1における既存制度の把握・検討や概念の再検討については文献や資料に基づく研究であるので、地道に進捗したところである。しかし、②についてステップ2で企図していた、地区再編型区画整理の事例把握にまで至らなかった。この区画整理は①に関する調査の分析において関連する事例の発見が可能であると考えていたが、ニュータウンという既に計画的な基盤が整った住居系市街地を検討対象としていることから、そうした事例を得るには至っていない。この地区の特性をよく再検討し、2023年度において改めて住民が企図した区画整理の事例把握を進めていく必要がある。この大きな課題が残された点で、「やや遅れている」が妥当と考えた。 こうした進捗状況の背景としては、新型コロナウイルス感染症の影響が継続していたことも否定できない。2022年度は緊急事態宣言等の適用はなかったものの感染者数が増加した時期があり、やはり現地調査を自重せざるを得ない場面があった。2023年度、感染症法上の位置づけの見直しに合わせて、遅れた現地調査の進捗を図りたい。 また、成果発表についてもオンライン開催となる学会が多く、学会出張による情報収集や意見交換の機会が限られたことも影響した。もちろん、全てを新型コロナウイルス感染症拡大の影響に帰することはできないが、このように現地調査、成果発表に重大な影響があったため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は「やや遅れている」と評価したが、研究計画に定めたステップ1・2を意識して、基礎研究とりくむことはできた。また、目標①の調査票調査の分析、抽出した事例の現地調査など、ステップ3・4につながる研究成果が得られた。 しかし、②の進捗を図れなかったことが課題であった。また、①②に共通して、多くの事例について、現地調査を通じた実態の把握を行うことができなかった。そのため調査出張に至らず、研究経費の執行としても旅費を中心に積み残しがあった。 2023年度に計画しているステップ3は①②とも事例研究を、③は事例把握を進めることが課題である。また、ステップ4では事例調査の結果分析が課題となる。以上を意識し、まず②に関して早々に地区再編型区画整理の事例把握を進める。そのため、検討対象を①で取り扱っているニュータウンから拡張し、既成の住居系市街地をさらに分類し、開発ポテンシャルの低さから区画整理による再整備へと至った事例の情報を収集する。その際、区画整理のデータ集である区画整理促進機構『区画整理年報』を活用するとともに、自治体への地区再編型区画整理に関するとりくみ状況の把握も兼ねた調査票調査の実施を図ることで研究を進める。 ①に関しては事例研究として、まず、2022年度に抽出した名取市相互台地区での調査を進める。同地区では地域自治組織(自治会)の代表への聞き取り調査を行った経緯があり、次に住民への調査票調査について相談、企画の具体化を進めているので、その進捗を図る。また、2022年度においてニュータウン以外での地域自治組織実行型地区計画に関する情報をいくつか収集しているので、その詳細な分析にも着手する。 そして③に関してはまず資料と情報の収集を進め、特にステップ4で具体的な事例に触れる機会を設けていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由としては、目標②の地区再編型区画整理の事例把握が遅延したことがあげられる。ニュータウンという既に計画的な基盤が整った住居系市街地を主な検討対象として2022年度の研究を進めたが、本研究で企図した事例との重なりが今のところ見られない。この点を見直し、2023年度は検討対象とする住居系市街地の考え方を拡張し、事例把握を進めることで研究費の執行も進める。 また、新型コロナウイルス感染症の影響により、現地調査や学会発表のための出張が十分に行えなかったことも理由の一つにあげられる。このため、旅費の執行が計画のとおりに進められなかった。 以上の理由から2023年度での使用が生じたが、実施できていない現地調査や学会発表のための旅費、必要な資料等の購入によって執行は問題なく進められると考えている。また、①について名取市相互台地区での住民への調査票調査、②について自治体を対象とした調査票調査を計画しており、むしろ2023年度に繰り越した研究費も有効に活用して、これら調査の進捗を図る。
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備考 |
・研究発表に掲載した論文のいくつかは、福島大学行政政策学類社会調査論研究室ホームページより閲覧可能である。 ・本研究に関連して2021年度に公表した下記の論文が、「2022年度都市住宅学会賞・論文賞」を受賞した。表彰式は2022年11月に行われた。 今西一男、小規模区画整理による遊休地再編の現状と課題、都市住宅学会編集・発行、『都市住宅学』、第115号、2021年、pp.144-149
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