研究課題/領域番号 |
22K04511
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
野口 憲治 日本工業大学, 建築学部, 助教 (30337513)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 近世 / 町家 / 長崎 / 町家模型 / 桟瓦 / 丸桟瓦 / 長崎街道 / シーボルト |
研究実績の概要 |
本研究は、長崎出島に勤務したオランダ商館員がみた町家の特質を基礎に、地域ごとに異なる近世町家の成立要因を明らかにすることを目的とする。19世紀初め、長崎出島のオランダ商館に勤務した商館員(シーボルト、ブロムホフ、フィッセルなど)は、日本人と異なる視点で日本の町家を観察・理解し、日誌や模型などで遺した。なかでもシーボルトは、江戸までの主要都市を訪れ、町家・町並みに関する記録を挿図や日記などに遺している。 令和4年度は、長崎街道沿いの町家の桟瓦に着目した。シーボルトは、江戸参府の帰路で瓦工場に立ち寄り、ヨーロッパの瓦と比較したり、製造方法について述べたりしている。また、瓦の木型を日本で収集し、オランダへ持ち帰り、現在でもライデン国立民族学博物館に所蔵されている。このようにシーボルトは、日本の建物(町家)の瓦に興味を示していた。 そこで、シーボルト・コレクションの町家模型の桟瓦をみると、桟の部分に丸みがあり「丸桟瓦」を彷彿させる表現をしている。丸桟瓦は、史跡出島和蘭商館跡から発掘され、北九州地方特有の桟瓦とされる。しかし、その範囲は定かではない。そこで、長崎街道沿いの町家遺構における丸桟瓦の地域分布と産地を調査・分析した。 その結果、長崎から佐賀までは丸桟瓦であった。その産地は、有明沿岸地域と考えられる。いっぽう、山家宿以北は、鎬桟瓦が主流であった。このように、同じ長崎街道沿いの町家であっても桟瓦の細部をみると地域性があることを明らかにした。 つぎに、長崎街道沿いの桟瓦の研究成果・方法をもとに、日光例幣使街道および日光街道沿いの町家の分析に着手した。まだ限られた地域(旧栃木宿・旧古河宿)であるが、桟瓦の文様には地域性があることを示唆することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
長崎街道沿いの町家において、ある程度の現地調査を実施することができた。しかし、オランダ商館員らの日記などの史料分析・比較検討に遅れが生じている状況である。また、研究開始当初は、まだコロナ禍の状況であったため、十分な現地調査を実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.ライデン国立民族学博物館における調査 ライデン国立民族学博物館に所蔵されている瓦の木型(シーボルト・コレクション)の実測調査を実施する。また、瓦に関する史料が所蔵されているか確認する予定である。 2.西日本から江戸における江戸参府ルートの都市の町家・町並みの分析 九州地方での成果を基に、西日本から江戸にかけての江戸参府ルート上の宿場町・城下町の町家・町並みの地域的特質を明らかにする。各地の現存遺構、名所図会、古写真から町家の建築的特徴を抽出し、オランダ商館員が遺した記録(模型や日記など)と比較し、各地域の町家の地域的特質を明らかにする(桟瓦の形式など)。このように、長崎から江戸までの江戸参府ルート上の町家を比較検討し、全国的な視野で地域的特質を明らかにする。 3.デジタルツールを用いた町家模型の分析 本研究計画では、新たな試みとして全天球カメラやフォトグラメトリー(さまざまなアングルから撮影し、そのデジタル画像を解析・統合して立体的な3次元モデルを作成する手法)、オルソ画像(ひずみが無い正射投影画像)を用いた町家模型の調査・分析を実施する。これまで人の目では見ることができなかった模型内部の様相などが分析可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本建築学会計画系論文集への投稿を持ち越ししたため、投稿費用などの残高が生じた。令和5年度は、論文集への投稿を予定しており、投稿費用として執行する予定である。
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