研究課題/領域番号 |
22K04541
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研究機関 | 西日本工業大学 |
研究代表者 |
鷹尾 良行 西日本工業大学, 工学部, 教授 (60206711)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 宇宙電気推進 / イオンエンジン / マイクロ波放電 / 航空宇宙工学 / 推進・エンジン |
研究実績の概要 |
宇宙環境の利用のために50kg以下の小型衛星の打ち上げが行われており、毎年100機以上の小型衛星が打ち上げられている。従来の大型衛星と比して、超小型衛星が短期間(~3年)に低コスト(1/100以下)で製作できる為で、地球観測や通信での有用性が実証されつつある。将来的に小型衛星の編隊飛行による大型衛星機能の代替が計画されており、その実現のために搭載が簡単で長寿命のイオンエンジン等の小型推進機が必要不可欠である。その中で、マイクロ波放電式イオンエンジンは、構造が簡単で「はやぶさ」で長期にわたる動作を証明している。マイクロ波放電式イオンエンジンは、円筒形の放電室とその外周に設置された円柱型永久磁石、放電室開放部(下流)に設置した2枚の静電グリッドおよび放電室内にマイクロ波を導入するアンテナ(放電室上流に設置)で構成されている。放電室内部には外周部の永久磁石により磁場が生成されており、マイクロ波の交流電界と外部磁場による電子サイクロトロン共鳴(ECR)により放電室内の電子は加熱(加速)され、推進剤がプラズマ化される。このプラズマ内の正イオンを前面の2枚の静電グリッドを用いて引き出し、噴出することにより推力を生成する。 この様にイオンエンジンはプラスイオンを噴出し推力を発生するが、エンジンの電気的な中性化のために電子の放出源(中和器)が必要であり、イオン源と電子源を別々に作製するために、小型化に困難が生じている。 本研究では、5cm級以下のマイクロ波放電式イオンエンジンの単一の放電室から、イオンと電子を同時に引出すタイプの小型推進器を作製し、エンジンの電気的中和性に関する特性を明確にする。この研究によって、新型小型推進器の設計例を得ることが出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、既存の5cm級の可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンを用いて、電子とイオンの引出し孔を有する静電グリッドを製作・設置することにより、イオン引出しと電子引出しの個々の実験を行った。本可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンは、イオンエンジンの放電室外周部の背景磁場生成用磁石に加えて、円筒型放電室の軸方向と半径方向に移動できる6個の永久磁石を放電室内部に配置した構造で、イオンエンジンを駆動中に放電室内の磁場配位を変更しプラズマ形状を変えることが出来る。 現在までの進捗状況は次の通りである。 ①電子とイオンの引出し孔をそれぞれ有する静電グリッドを設計・製作した。 ②作製した静電グリッドを用いて、Xeガスを用いてイオン引出し実験を行い、引出しイオン電流が最大となる様にイオンエンジンの背景磁場を調整した。イオン引出し量は、従来の静電グリッドと同程度であった。 ③作製した静電グリッドを用いて、電子の引出し実験を行った。この際、イオン引出し孔の方から電子の引出しが行われないようにイオン引出し孔部分にはカバーを設置した。電子引出しには成功したが、引出しイオン電流の1/10程度であった。電子引出し孔の増加と引出し位置でのプラズマ密度の向上が必要である。 ④これらの結果を受けて、放電室内の背景磁場を強化しプラズマ密度を高くすることとした。そこで、電磁石を永久磁石に加えたマイクロ波放電式イオンエンジンの設計・製作に着手した。⑤マイクロ波式イオンエンジンの上記のイオンおよび電子引出し実験結果を学会で報告した。 以上の成果より、進捗状況を「おおむね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で得られた知見を基に、中和器内蔵型の小型マイクロ波放電型イオンエンジンの研究を、以下の方策にて推進する。 研究遂行は、主に研究代表者および学部学生4名にて実施する。 ①放電室内部のプラズマ密度を向上したイオンエンジンの製作:マイクロ波放電型イオンエンジンの背景磁場の磁束密度を永久磁石に加えて電磁石を設置することにより増加させ、同時にマイクロ波の周波数を上げてプラズマ密度を向上させる。本実験装置を中和器内蔵型イオンエンジンの実験に使用する。 ②イオンエンジンの電気的中性化の測定:イオン引出し電源および電子引出し電源を絶縁トランスで直流的に絶縁し、イオンおよび電子の同時引出しを行いイオンエンジンの電気的中性化に関する実験データを収集する予定。 ③成果をまとめ国内外の学会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最初に、イオンと電子の引出し性能を計測するために、既存のイオンエンジンを流用し予備実験を行ったためである。この結果、イオンエンジンのプラズマ密度を上げる必要があることが分かった。なお、本年度の研究費の大部分は校費で賄うことが出来た。 次年度は、放電室内に強い磁場を発生するために電磁石を搭載したマイクロ波放電式イオンエンジンおよび、前年度の実験を踏まえた電子とイオンを引き出す静電グリッドを製作し実験を行う。イオンエンジンの製作は、西日本工業大学の技術センターによる部品製作と精度の必要な部品は外部発注で行う。種々の金属材料を使用し、加工のための工具および外部での部品製作費が必要となる。これらイオンエンジンの実験機器は、研究の基本であり繰り越した研究費も使用する。その他、実験消耗品を含めての不足分は校費を使用する。
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