研究課題/領域番号 |
22K04545
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
須藤 真琢 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙探査イノベーションハブ, 研究開発員 (80712851)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 月探査 / 低重力 / ローバ / 個別要素法 / テラメカニクス |
研究実績の概要 |
過去、複数のローバが月や火星の地表面を走行しているが、月や火星の低重力環境が地盤と探査車(ローバ)の相互作用に及ぼす影響には、未解明の部分が多く残されている。2030年代の月惑星探査に向けて、月や火星の低重力環境における地盤とローバの相互作用の解明が重要である。そこで本研究では、月や火星の低重力における地盤でローバの車輪に働く力とスリップ等の関係を詳細に調べることで、ローバの走行挙動を表現する相互作用モデルの構築を目的とする。この目的達成のために(A)個別要素法(以下、DEM)に基づいた数値解析、(B)ローバの車輪を用いた走行挙動解析、及び(C)地上フィールド実験によるローバ車体の走行挙動解析に取り組んでいる。以下、当該年度の研究実績の概要を記す。 (A)におけるDEMに基づいた数値解析を通して、月や火星の低重力における地盤を模擬し、異なる重力環境で車輪が生み出す力とスリップの関係を明らかにした。DEMを用いた数値解析では、地盤は多数の粒子で構成され、その粒子と粒子の間、および粒子と機械の間で生じる力に基づき、地盤と機械の挙動が推定される。数値シミュレーション内の地盤粒子や車輪に働く加速度を変化させることで、月や火星等の重力に相当する低重力環境における地盤で生じる現象を再現した。このような異なる重力環境において、様々な斜度の走行路面で車輪を走行させるシミュレーションを行い、車輪のけん引力と滑りの関係を解析した。この解析の結果、車体に働く荷重のみを低減させるローバの地上実験では、低重力環境におけるローバの走行性能を過大に評価する可能性があることが示された。これは、ローバの設計開発に対する重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の(A)~(C)は、本研究着手当初に設定した項目であり、当初の研究項目に沿って研究を行っている。 (A)は、2022年度に実施予定の項目であり、当初の予定通り、DEMに基づいた数値解析を実施した。一般に、月や火星におけるローバや車輪に関する地上実験では、低重力環境におけるローバや車輪の挙動を模擬するために、カウンターウエイト等を用いてローバ/車輪の荷重を低減させる手法が用いられてきた。しかしながら、車体と地盤の両方に働く重力を変化させた場合、及び車体のみに働く重力を変化させた場合の数値解析の比較から、車体に働く荷重のみを低減させる従来手法では、低重力環境におけるローバの走行性能を過大評価する可能性を確認した。また、(B)は、2022~2023年度に実施予定の項目であるが、(A)におけるパラメータ検討や数値解析に当初の想定よりも時間を要したため、2022年度は未着手となった。(C)は、当初の計画から2024年度に実施予定の項目である。 (A)の数値解析から本研究の目的達成に必要な基礎データを着実に蓄積している一方で、(B)ローバの車輪を用いた走行挙動解析は、遅れている状況である。以上のことから、本研究は、研究着手当初の研究実施計画に対してやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、(B)ローバの車輪を用いた走行挙動解析、及び(C)地上フィールド実験によるローバ車体の走行解析に取り組むことで、低重力環境における地盤とローバの相互作用モデルの構築を目指す。 (B)について、砂槽上でローバの車輪を用いた走行実験を行うことで、車輪が生み出す力とスリップの関係を実験的に明らかにする。本研究項目は、研究開始当初の計画に対してやや遅れており、車輪の走行試験装置の製作を加速させる。この装置を用いて、月や火星の表土(レゴリス)を模擬した地盤上で車輪のスリップ量等を変化させた実験を実施する。(A)の数値解析から得られた推定値と実験値の比較を行うことで、低重力環境における車輪の力やスリップを推定可能なモデルを構築する。 (C)では、屋内砂地フィールドでローバを用いた走行実験を行うことで、ローバが車体として生み出す力やスリップの関係を実験的に明らかにする。本研究項目は、2024年度に、申請者らが所有するローバを用いて実施予定である。データ計測に必要となるローバの追加搭載機器のインターフェース調整などを可能な限り前倒しで進めることで、次年度円滑に実験を行えるように準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初、2022年度に着手を予定していた、(B)ローバの車輪を用いた走行挙動解析の進捗に遅れが生じたため、2022年度に想定していた実験装置の製作やセンサの追加を行うことができなかった。そのため、実験装置の製作費として計上していた費用は、次年度に使用する。
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