研究課題/領域番号 |
22K04563
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
谷口 直和 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 共同研究講座准教授 (30711733)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 潮流場再現 / 水中音響 / データ同化 / 沿岸海洋 / 潮汐・潮流 |
研究実績の概要 |
本研究は、音波送受信実験・伝搬時間計測データから得られる経路平均流速を数値海洋モデルにデータ同化させた、高精度沿岸流速分布の準リアルタイムモニタリングシステムの構築を目的とし、瀬戸内海の約100平方キロメートル程度までの比較的小領域の湾や灘へ適用できるシステムの構築を目指している。2022年度は、音波経路平均流速に適したデータ同化法の検討と音波送受信・伝搬時間計測装置の製作に取り組んだ。 データ同化法の検討に関して、本研究で実証実験実施予定場所である三原瀬戸海域の潮汐・潮流を対象とした数値流動モデルを構築し、過去の音波送受信実験データに代表的なデータ同化法の一つであるアンサンブルカルマンフィルタを用いたデータ同化実験を行った。アンサンブルメンバ数や共分散局所化・共分散膨張といったアンサンブルカルマンフィルタに関するパラメータを変えた数値実験を行い、本研究の対象である比較的小領域の潮流を対象とする場合は共分散局所化は必ずしも必要でないこと、また対象海域の再現には100アンサンブルメンバ程度でよいといった知見を得た。再現した潮流場の流速変動を超音波ドップラー流速計で計測した流速データと比較することで、対象海域にある大久野島の下流の後流構造を含む流れ場の構造を概ね再現できていることを示した。しかし、相対誤差としては30%程度であり目標としている相対誤差10%は達成できていない。 音波送受信装置の製作に関しては、世界的な半導体不足のために使用予定であった半導体が入手困難であり、また、以前に試作した際に使用した部品の中にもCOVID-19の影響で製作が困難であるものもあった。そのため、新しく入手性のよい別材料や部品を検討し、送受信回路試作器の設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、音波送受信・伝搬時間計測装置を自ら設計・製作して音波送受信を行う。 音波送受信・伝搬時間計測装置の製作に関して、世界的な半導体不足のために使用予定であった半導体が入手困難であった。また、以前に試作した際に使用した部品の中にもCOVID-19の影響で製作が困難であるものが生じた。そのため、新しく入手性のよい別材料や部品の検討が必要であった。これらの影響で、2022年度では部品の入手や別材料を用いた部品の試作にとどまっており、2022―2023年に予定している音波送受信・伝搬時間計測装置の試作と送受信テストがやや遅れている。 2022年度は数値モデルの製作と過去に取得した実験データを用いてデータ同化法の検討を行った。比較的簡易なスキームを用いて実証実験の対象海域である瀬戸内海三原瀬戸海域の数値モデルをつくり、過去実験データを用いてアンサンブルカルマンフィルタ法でデータ同化の効果を調べた。過去実験データに対してではあるものの、音波送受信伝搬時間データをアンサンブルカルマンフィルタによるデータ同化に利用することで、データ同化法を用いないモデル流速結果に比べて流速場再現精度が向上することを確認した。超音波流速計(ADCP)を使った流速計測結果と比較すると、流れのパターンはよく再現できていたが、相対誤差としては約30%と比較的大きな差が残っている。不確かさの大きい境界条件をデータ同化法で修正できれば、ADCPとの相対誤差も小さくできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
部品の入手がそろったので、装置の試作・設計・製造を行い、音波送受信実験とデータ同化法による潮流場再現・精度検証を行う。また、試作機を複数日野外に設置し、野外環境でも音波送受信データがロバストに無線転送できることを確認する。 モデルグリッド間隔や差分法の精度に関して簡易な方法を用いているが、モデル表現誤差のために高精度な音波送受信時間を活用できていない。音波送受信データから算出する流速データは数値モデルの精度検証用としても使えるため、数値モデルのグリッド間隔や差分スキームの精度の違いによる流速場再現性の違いについて比較し、実証実験海域におけるリアルタイムモニタリングに必要な数値モデルのモデルグリッド間隔や数値積分スキームについても検討したい。 また、アンサンブルカルマンフィルタを用いて開境界で与える水位変動・流速変動の修正を行う。比較的小規模な領域における潮流を対象とした流動モデルの場合、モデル領域内では状態変数間に相関がある。アンサンブル数を増やすことでアンサンブルカルマンフィルタを適用する際に問題になる疑似相関を小さくすれば、領域内における状態変数の共分散を使って開境界における流速データもアンサンブルカルマンフィルタで修正できると考えている。
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