研究課題/領域番号 |
22K04567
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
坂本 信晶 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 海上技術安全研究所, 上席研究員 (80550003)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | RaNS / 乱流モデル / EnKF / データ同化 / 剥離流れ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、通常変更されることのない乱流モデル中のモデル定数に注目し、それらを実験結果を援用したデータ同化により変更することで、船体周り流れに適したモデル定数を同定し、RaNS計算による船体周り流場推定の高精度化を達成することである。2023年度は、2022年度に開発したデータ同化システムの、計算アルゴリズム修正・高速化・3次元船体への適用と検証を実施した。
先ず計算アルゴリズム修正では、指定した計測位置における複数要素の計測結果(例えば流速uだけでなく、u,vおよび圧力p等)をデータ同化計算に使えるようコードの修正と検証と実施し、問題なく動作することを確認した。次に高速化では、アンサンブルメンバーアップデートをフィルタリング毎に行う部分をMPIを用いて並列化し、かつCFD計算コードは別途準備した実行ファイルを指定するだけ、つまりデータ同化コードとCFD計算コードを完全に分離した上で、並列化を行った。これにより、アンサンブル計算に用いる計算ノード数に反比例して、アンサンブルメンバー計算時間が減ることを確認した。
最後に3次元船体への適用と検証では、2次元naca4412翼の流場計測データを援用し、k-omega SST乱流モデル中の5パラメータを対象としたデータ同化を行うことで、小,中規模の剥離流れ解像に適したモデルパラメターの同定に成功した。同定したパラメターのうち、ωの生成・減滅項に作用するβ1(=0.16(データ同化後の値))を、理論的検証を行った上で3次元船体計算に適用し、4隻の異なる要目を持つ実用船型(タンカー、バルクキャリア)において、全ての船尾流場計算精度が元パラメター(β1=0.075)に比べ改善することを示した。尚、β1=0.016は抵抗計算精度には影響をほとんど与えず(1%未満)、平板乱流境界層速度分布に影響が少ないことも、合わせて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に、当初の目標であった3次元船体周りの流場計算精度を改善する乱流モデルパラメターを、データ同化により同定できたので本研究は概ね順調に進展していると言える。また、この研究成果を国際ジャーナルに投稿済であることも付記しておく。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、データ同化により同定した乱流モデル中のパラメターが3次元船体周りの流れ計算精度を改善することを、定量的かつある程度汎用性を以て示すことが出来た。しかし、どの位置の、どの計測データを使えばいいか、ということについては依然としてad-hocに決めている状態である。2024年度は、計測位置の最適化、つまりどの計測位置のデータが最も良い(=流場計算精度を最も改善する)データ同化結果につながるか、ということを定量的に決めるための研究を行う。
より具体的には、制御工学分野で提唱され、かつ 三坂・大林(2016)/Yoshimura et al. (2020)によってデータ同化と組み合わされ実績のある、経験的可観測性グラム行列を評価する手法を開発する。より具体的には、2023年度に実施した翼周り流場のデータ同化計算に対して、前述の方法を適用する。これとは別に、データ同化対象とする乱流モデル中のモデル定数の、状態変数への組み込み方、EnKF以外のデータ同化アルゴリズムの適用可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研課題応募の時点では、計算ノードを1台調達するための費用を計上していたが、半導体価格高騰等の理由により計算ノードの価格が上がり調達ができなくなったため、次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額については、ローカルマシンの調達、可視化ソフトウェアライセンスのアップデート、国内研究会への出張等により全額執行予定である。
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