研究課題/領域番号 |
22K04595
|
研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
吉田 昌幸 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (90533513)
|
研究分担者 |
小林 重人 札幌市立大学, デザイン学部, 准教授 (20610059)
宮崎 義久 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (60633831)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | デジタル地域通貨 / デジタル決済 / 地域経済 / コミュニティ形成 / ゲーミング・シミュレーション |
研究実績の概要 |
本年度は,デジタル技術が地域通貨に及ぼす変容としてデジタル地域通貨とアナログ地域通貨の比較分析をゲーミング・シミュレーションを通じて行った。具体的には,地域経済効果をもつと認識されている紙幣型と地域コミュニティの形成に効果を持つと認識されているLETS型の2種類のアナログ地域通貨をそれぞれデジタル化し,その4つの形態の地域通貨を用いたゲーミング・シミュレーションを体験した被験者にそれぞれの通貨の印象を記入する質問紙調査を行った。 結果からは,(1)紙幣型の地域通貨のデジタル化は,アナログ紙幣型と同様に地域経済への影響力があるものと認識された一方で,(2)LETS型の地域通貨のデジタル化は,地域コミュニティの形成効果を持つものとしては認識されていないことが明らかとなった。この結果からは,地域通貨のデジタル化は地域内の経済循環をより促進する一方で,地域コミュニティの形成という点では課題がある事を示している。 地域通貨の利点は,特定の価値や倫理などを基に形成されたコミュニティを基盤に経済循環を促すところにある。本研究からは,デジタル地域通貨の使用によってコミュニティへの帰属感をいかに認識させていくかについては,決済アプリのインターフェイス,地域通貨の流通経路など様々なレベルから考えていく必要があることが明らかになった。 このような点を考える上で,本年度は新たに地域経済循環を促す上でコミュニティが果たす役割を考えることができる「地域経済循環シミュレーション」というゲーミング・シミュレーションを開発し,試行実験を行った。本年度はデジタル決済アプリを開発することで,取引履歴なども詳細にわかる仕組みを用意した。来年度は,これにデジタル地域通貨を導入しながら上記の課題について考察していく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,「デジタル化することによって地域通貨の『使用感』はどのように変容するのか」という課題に対して一定の回答を出すことができた点で,順調に進展している。特に,地域通貨のデジタル化がその利便性の向上により地域経済の促進に効果を持つような認識がなされている一方で,コミュニティ形成機能が滞るという点は,今後のデジタル地域通貨の展開や望ましい姿を考える上で重要な示唆を与えるものとなっている。 もう一つの研究課題である「使用感の制御」については,当初ゲーミング・シミュレーションでの成果を小樽市の地域通貨Tarcaのデザインに反映させて分析を行う予定であったが,運営が事実上止まっており,当初予定の研究は難しいが,開発したTarcaのデジタル決済システムを来年度以降改良していき,他の地域へ導入できないかどうかを来年度検討していく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,デジタル地域通貨の使用感をどのように制御していくかという課題について検討していく。そのために,第一に試行した「地域経済循環シミュレーション」をベースに地域通貨を導入することによって,コミュニティを基とした地域経済の循環を体現できるように改善していく。その上で,決済システムや,流通経路,そして運営組織などによるデジタル地域通貨の課題であったコミュニティ形成を促す仕組みについて考察していく。その上で,小樽市の地域通貨Tarcaのデジタル決済システムの改善案を検討していきながら,使用感の制御という課題について検討していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の状況で研究会議などが予定通り進むことがなかったため,未使用額が発生した。未使用額については,次年度のTarca決済システムの改良などにおいて用いる予定である。
|