研究課題/領域番号 |
22K04613
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片桐 祥雅 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 上席研究員 (60462876)
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研究分担者 |
今井 絵美子 神戸大学, 保健学研究科, 保健学研究員 (20827589)
矢野 美紀 広島都市学園大学, 健康科学部, 教授(移行) (80347624)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 認知制御 / 依存症 / インターネット / 食 / 深部脳活動度 / 睡眠 / 不安 / ストレス |
研究実績の概要 |
在宅型テレワークでは、気分障害のみならず様々な依存症のリスクがある。本研究は、こうしたネガティブアウトカムを防止するために有効なメタ認知機能の神経科学基盤を明らかにすることを目的とする。 メタ認知機能の低下によりストレスを有効に処理できずに依存症に至るという当初の仮説を検証するため、不安尺度、睡眠の質並びに各種依存リスク(食およびインターネット)に関する質問紙調査を行った。被験者をリクルートした機関は、音楽大学(14名)、医療専門学校(20名)及び一般大学(170名)であった。データに対して回帰分析を行い、不安尺度と各種依存症リスクに有意な正の相関を認めた。さらに主成分分析を行ったところ、群間での相違を認めた。具体的には、医療専門学校及び一般大学では不安と二つの依存度リスクが近い位置にあるものの、食とインターネットの距離は遠く、有意な相関は認められなかった。一方、音楽大学では不安と二つの依存リスクとの距離は遠かった。さらに、質問紙調査の結果を神経科学的に解析するため、不安尺度と深部脳活動度との関係を調べた。その結果、有意な正の相関を認めた。一方、認知試験よりモノアミン神経を中心とする上部脳幹を含む深部脳の活動度は不安尺度と有意な相関を得た。 以上の知見を統合すると、深部脳活動度が低いほど依存症リスクが減少することとなり、当初の仮説に反した。そこで質問紙調査対象に対する感度解析を行ったところ、依存症を呈しない健常者の場合、依存症リスク因子は依存対象に係る行動の頻度であることが判明した。この結果は、深部脳機能が高く依存的行動を頻回にとる場合と不安尺度との間は正相関であることを示した。 以上の結果から、依存的行動は依存症という負の側面のみならず、抗不安という正の側面を有する可能性があることを新たに見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
質問紙調査結果に対する回帰分析、主成分分析並により、依存的行動は不安に対抗するための有効な手段として本来備えらえた神経科学的メカニズムに立脚したものであるという新たな仮説を得るに至った。この仮説の有効性は三つの異なる群を対象とした場合でも同じであるという感度解析により検証するに至った。 基本的な標準注意検査に準拠したタスクを構築し、深部脳活動法による背側前部帯状回のダイナミクスから認知処理プロセスを評価する基盤技術を確立した。しかしながら、脳波計測を中心とする対面による被験者試験については、コロナ禍により十分な被験者を確保することが難しく、個々人のメタ認知能力を評価するための試験を十分に行うに至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
質問紙調査から、依存的行動は抗不安という正の側面を有する可能性があることを新たに見出した。この新たな仮説はテレワークにおけるメンタルヘルスリスクを回避するための新たな方法論の端緒となり得ると考え、仮説検証を行う。 また、唾液を検体とする生化学試験により抗酸化能及び酸化状態を小規模集団に実施し、対象となる被験者を統制するための方法論を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染再拡大により予定していた対面による被験者試験を実施することができなかったため額が生じた。 次年度では前年度予定していたメタ認知能力を評価するための試験を実施するほか、新たに見出した仮説を検証するための試験並びに酸化ストレスの生化学的評価法の検討を予定しており、実施に必要な生理計測、電気計測に係る消耗品の購入に充当する。
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