研究課題/領域番号 |
22K04619
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
中村 雅夫 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (60373445)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 衛星帯電 / 衛星帯電環境データベース / 衛星帯電環境モデル / 宇宙天気 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、衛星観測データから衛星表面帯電を引き起こす宇宙プラズマ環境をデータベース化して、静止・中高度軌道の衛星帯電位評価用のプラズマ環境モデルの作成を目的としている。これまで、中高度軌道を2機編隊飛行するVan Allen Probe衛星の観測データを用いて解析を行なった。この衛星の大きさ・形状・素材のパラメータを用いて作成した衛星帯電解析モデルを利用して周辺宇宙プラズマ環境と衛星帯電電位との解析・評価を行った。前年度の成果から、プラズマ圏外の地球半径の約4倍以遠では、衛星が日陰領域にある時、衛星周辺の高温電子の流入フラックスが大きくなると深い負帯電が引き起こされ、マイナス1kV以下に達する帯電も起きた。日照領域では、マイナス数十V程度の負帯電が発生する。深い負帯電が起きないのは、太陽光照射面から光電子が放出されることが原因である。これら日照時の負帯電は、磁気圏サブストームに伴い夜側から朝側にかけて静止軌道を超えて内部磁気圏まで高エネルギー電子が侵入し電子流入フラックが増えたため考えられる。 2023年度は、日照領域の負帯電を引き起こすプラズマ環境を、エネルギースペクトルを用いて詳しく調べた。その結果、サブストームによるものと考えられる高温電子成分のフラックス積算値が閾値を超えた場合に、衛星の負帯電が起きていた。しかし、閾値を超えた場合でも負帯電が起きないことが多いこともわかった。これら閾値を超えても負帯電していない場合は、負帯電する場合に比べて2次電子放出を起こす低エネルギー帯の電子フラックスが多かった。この結果は、2次電子放出が負帯電を妨げていることを示している。従って、衛星帯電位評価用のプラズマ環境モデルでは、高温プラズマと2次電子放出を起こすエネルギー帯のフラックスの両方を評価できるモデル化手法の開発が必要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Van Allen Probe衛星の観測を用いて衛星帯電時のプラズマ環境を調べた結果、高温電子フラックが閾値を超えると負帯電が引き起こされるという必要条件が明らかになった。しかし、閾値をこえても負帯電が起きないことも多く、十分条件を明らかにすることが重要となった。Van Allen Probe衛星の帯電解析モデルを利用して、光電子と2次電子放出量を計算した結果から、これらが負帯電を妨げていることがわかった。この結果から、衛星帯電評価用プラズマ環境モデルでは、高温プラズマ成分と2次電子放出を引き起こすエネルギー帯成分とを統計的に評価できることが必要であり、そのモデル化手法の研究開発をおこなっている。
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今後の研究の推進方策 |
衛星帯電解析モデルがあるVan Allen Probe衛星の詳しく解析をおこなうことにより、同衛星表面帯電を引き起こすプラズマ環境の特徴を調べ、帯電・放電のリスク評価用のプラズマ環境モデルに必要な条件を明らかにしモデル化手法の開発をおこなっている。次年度以降はそれと平行して、あらせ衛星など他の衛星の観測データを取り込んだ大規模なプラズマ環境データベースを作成し解析することで、統計精度を高めるとともに衛星の違いによる特徴も明らかにして環境モデル化と評価手法の改善をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題採択前から関連する研究でVan Allen Probe衛星データ解析ができる計算機と解析ソフトを導入して解析環境を構築していた。前年度からの課題を、同衛星データを詳しく調べ解決することを優先して研究を進めたため、他の衛星データを含む規模データの作成と解析用計算機の購入を先送りすることになった。次年度以降、解析する衛星データを増やし今年度得られた結果を用いて研究を行っていくため予定していた解析用計算機を購入し研究をおこなう。また、国内外の学術会議のオンライン化や現地参加調整がつかなかったことによる旅費未使用が生じたが、次年度前半には重要な国外会議2件の参加を決めており成果発表に利用する予定である。
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