研究課題/領域番号 |
22K04623
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
吉田 孝博 東京理科大学, 工学部電気工学科, 教授 (10385544)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 静電気放電 / ESD保護素子 / TVSダイオード |
研究実績の概要 |
本研究は、電子機器の静電気耐性改善のために電子機器に多く実装される静電気放電(ESD)保護素子に対して、同一仕様の保護素子間の特性や保護性能の差までも表現できる、保護素子の計測・評価技術、ならびに保護素子のモデリング手法の実現が目的である。本研究は、動的応答特性モデリングの高精度化と実用化に向けた検討として、2022年度からの3年間で(1)動的応答特性モデリング手法の改良ならびに他種の保護素子への対応と、(2)モデリング手法の精度改善に伴うESDストレスシミュレーションの精度改善効果の検証を行う計画である。 2022年度には上記(1)について研究を進めた。この中で、モデリング手法の改良に必要となる、保護素子の動的応答特性と静特性との関係性についての検討を行った。この検討は、仕様が酷似した4種類のTVSダイオードにおいて、LCRメータで実測した静電容量・インダクタンス、ならびにベクトルネットワークアナライザ(VNA)とバイアスティで保護素子に電圧を印加した状態で測定する我々の方法を用いて得たTVSダイオードの動作時・非動作時の周波数特性と、ESDガンでTVSダイオードにESDを印加してオシロスコープで実測した電圧応答波形との関係を調査した。 その結果、下記の4点が判明した。(i)ESDの印加開始直後の電圧上昇前に数nsの応答遅れがあり、その時間は素子で異なる。この時間は素子の静電容量と正の相関がある。(ii)クランプ動作開始までの過渡領域の電圧上昇の傾きは、静電容量が小さいほど大きい。(iii)クランプ動作終了後、応答電圧低下部分の電圧の傾きは、静電容量が大きいほど小さい。(iv)保護素子の非動作時のディップ周波数と動的応答速度には正の相関がある。 これらの成果は、動的応答特性モデリングを改良するために必要となる、有効かつ重要な基礎データならびに知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の研究実績に記した研究項目については、上記の研究成果が得られたため、おおむね順調に進展していると考えている。 一方、研究実施計画では、この研究項目に加えて、他種のESD保護素子であるバリスタに提案手法を対応させるための装置構造の試作についても掲げていた。この研究項目に対しては、2022年度にVNAを外部トリガ制御する計測系を考案し、その制御回路を試作してバリスタの計測を試みたが、バリスタを十分な動作状態とするために必要な電流量に耐えられる広帯域バイアスティが入手できないことや、計測に要する時間に流した電流によってバリスタが熱的破壊してしまうなどの諸問題が明らかになり、多くの時間を割いて挑戦したにもかかわらず、計測の実現には及ばなかった。そのため、この研究項目による時間的ロスを考慮し、総合的な進捗状況を「(3)やや遅れている。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、2022年度に行ったESD保護素子の動的応答特性と静特性との関係性についてのより現実的な電子回路を考慮した追加検討として、ESD保護素子の周辺回路のインピーダンスなどを変化させた際の特性変化について実測調査を進める。この実測調査でも、代表的なESD保護素子(TVSないしバリスタ)とその周辺回路を様々な水準で実装したプリント基板を製作し、ESD試験器にてESDを印加し、広帯域減衰器を介して接続したオシロスコープで実測を行う。また、ESD保護素子の諸特性は、LCRメータによる実測や、ESD保護素子のデータシートの特性値などにより得る。 また、もう一方の研究項目であるバリスタのモデリングに対しては、上記の現在までの進捗状況において記したように、2022年度の研究にて、VNAを用いて動作状態と非動作状態のモデリングを行うアプローチが困難であることが判明したことから、2023年度は、上記のESD保護素子の動的応答特性と静特性の実測調査から得られる両者の関係性からモデル化を試みるアプローチへ変更して、モデリングの実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、上記の現在までの進捗状況に記したように、他種のESD保護素子であるバリスタに提案手法を対応させるための装置構造の検討において多くの試行錯誤を行っていたため、この試行錯誤に伴う材料購入により物品費の支出は計画より増加したが、その実現後に行う計画であったESDストレスシミュレーションの改良で使用予定であった高周波回路シミュレーションソフトウェア(HSPICE)の1年間利用ライセンスの契約を行わなかったためである。 2022年度は、前述のように代替案にて研究を進める状況となったため、その実測調査に必要な材料や計測機器の購入に、次年度繰り越しと2023年度の助成金を使用する予定である。
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