研究課題/領域番号 |
22K04631
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研究機関 | 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 嘉彦 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所, 化学安全研究グループ, 上席研究員 (60706779)
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研究分担者 |
岡田 賢 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (80356683)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 爆発災害防止 / 発熱挙動 / 硝酸-塩酸水溶液 / チタン / ニッケル / 銅 |
研究実績の概要 |
近年,チタンと硝酸を共存して取り扱う薄膜剥離工程における爆発事故が発生している.電子産業の発展に伴い,薄膜剥離工程の作業量が増加していく中,同様の事故が今後頻発する恐れが高いため,爆発原因の解明を行い,硝酸環境下におけるチタンの爆発危険性の詳細及びその安全な取扱方法を明らかにすることが,同種の爆発災害防止には必要不可欠である.本研究では,爆発的現象の原因を明らかにし,安全な取り扱い条件を確立することを目的とする.まずチタン-銅-硝酸-塩酸を共存させた試料について熱分析や小型反応熱量計による熱量測定を行い,急激な発熱を確認することで,爆発的な反応の有無を確認する.その後,液相及び生成すれば固相の化学分析を行い,爆発的な反応の起因となっている物質の同定を行う.さらに,チタン,銅,硝酸,塩酸の組成比を変化させて爆発的現象等の有無を調べ,爆発性物質の生成条件,爆発的現象の発生条件を確定する. 今年度は,硝酸-塩酸水溶液に塩化銅,チタン粉末及びニッケル粉末を共存させた系の発熱挙動を示差走査熱量計(DSC)により測定し,発熱挙動に及ぼす塩酸濃度及び銅イオン濃度の影響を調べた.また,表面処理の過程でよく用いられている表面活性剤として知られているポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル(POENPE)について,硝酸-塩酸水溶液,塩化銅,チタン粉末及びニッケル粉末を共存させた系の発熱挙動をDSCにより測定し,発熱挙動に及ぼす塩酸濃度及び銅イオン濃度の影響を調べた.その結果,銅イオンが共存することによってチタンと硝酸-塩酸水溶液が共存した試料の発熱が抑制されることが分かった.また,POENPEと硝酸-塩酸水溶液が共存した試料の発熱が,ニッケルが共存することにより高温側にシフトすることが分かった.一方,未だ爆発性物質の分解と思われる急激な発熱は確認されておらず,さらなる検討が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに,硝酸-塩酸水溶液に塩化銅,チタン粉末及びニッケル粉末や,表面活性剤の成分であるポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテルを共存させた系の発熱挙動を把握し,銅イオンが共存することによってチタンと硝酸-塩酸水溶液が共存した試料の発熱が抑制されること,ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテルと硝酸-塩酸水溶液が共存した試料の発熱が,ニッケルが共存することにより高温側にシフトすることを明らかにし,チタンを硝酸-塩酸水溶液で処理する際の反応に関する重要な知見を得たが,爆発性物質の分解と思われる急激な発熱は確認されておらず,爆発的な反応が生じることを確認するに至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
爆発的な反応が生じることを確認するに至らなかった原因として,DSCによる熱分析時に使用した容器材質の影響や,試験に供した金属の性状の影響が考えられた.そのため,熱分析・熱量測定時に使用する容器材質を,より不活性なものとするとともに,試験に供する金属の性状を,近年発生した事故例における条件に近い性状とすることにより,爆発的な反応により生じる急激な発熱の確認を目指す.その後,液相及び生成すれば固相の化学分析を行い,爆発的な反応の起因となっている物質の同定を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
爆発性物質の分解と思われる急激な発熱は確認されておらず,爆発的な反応が生じることを確認するに至らなかったことから,爆発的な反応の起因となっている物質の同定に関する分析を実施する際の費用が次年度に繰り越された. 次年度は,熱分析・熱量測定時に使用する容器材質を,より不活性なものとするとともに,試験に供する金属の性状を,近年発生した事故例における条件に近い性状とすることにより,爆発的な反応により生じる急激な発熱の確認を行う試験を継続するとともに,液相及び生成すれば固相の化学分析を行い,爆発的な反応の起因となっている物質の同定を行う.
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