研究課題/領域番号 |
22K04656
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
高田 洋吾 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (70295682)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 射出装置 / ワイヤー設置 / 矢 / 橋梁点検 / 防災 / ロボット / 軌道解析 / 制御 |
研究実績の概要 |
高度経済成長時に建造された橋梁の多くは建造後50年以上経過している。それらの老朽橋に関し、点検頻度を高め、小規模補修のみを行うことで、長寿命化することが重要視されている。点検頻度を高めることは、点検員の数と業務時間の増大化に繋がるため、ロボット化が急務となっている。ここで橋梁点検用として、鋼橋に張り付く車両型または歩行型ロボット、橋梁の傍を飛行するドローン、橋梁下部に設置したワイヤー上を移動するロボットが存在する。 ワイヤー移動ロボットは、橋梁から落下する恐れが少なく、ドローンでは不可能な近接点検が容易に可能、重い検査装置も搭載可能などの利点がある。しかし、橋梁下部にワイヤーを設置すること自体が難しい。 そこで、本研究では、橋の片側から矢を放ち、もう片側で放たれた矢を受ける(リングに通す)ことでワイヤーを張る研究を行っている。矢には糸を取り付け、リングに矢が通らなくても、矢は橋梁から落下しない。しかし、心象が悪く、一発で矢がリングを通ることが望まれる。そのため、矢の軌道解析と軌道予測を可能にするプログラムを作成した。具体的には、糸が付いた矢の3次元シミュレーションモデルを、高階非線形常微分方程式として構築し、その数値計算を行った。また、本科研費で購入した高速度カメラを用い、放たれた矢の2次元的軌道を座標として捉え、上記のシミュレーション結果と比較検討した。 さらに、射出された矢に関して、外乱の影響による軌道逸脱を察知し、軌道修正することが重要になりうると考えた。そこで、矢の上下に羽(薄板)を取り付け、矢自身を折り曲げ、羽に空気を当てて、軌道変更を試みた。ただし、この研究は途上にある。 また、上述の羽付きの矢の運動を立式化した常微分方程式を線形化し、制御工学の伝達関数として表現した。この伝達関数は、今後、制御系設計を行う上で役立つものと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究では、橋梁下部にワイヤーを設置することができる橋梁点検用射出式ワイヤー設置装置の開発を行っている。そのために、(1)矢の軌道に関する解析、(2)矢を放つ照準動作制御法の確立、(3)実地実証実験を順次進めていく必要がある。 矢の軌道に関して、今現在、購入したカメラを2台使って三次元的に捉えることはできていないものの、1台では確実に捉え、座標データとして記録することに成功している。また、糸が付いた矢の3次元シミュレーションモデルを、高階非線形常微分方程式として立式して、それを離散化の上、プログラムを作り、コンピュータ上でシミュレーションできる状態に至っている。そして、実験結果とシミュレーション結果に関して、定量的に完全一致しているわけではないものの、ほぼ一致していることも確認しているため、そのモデルは正しく作成できていると判断している。また、そのモデルを線形化し、伝達関数として表現することもできており、1年前に計画したところまで順調に研究が進んでいる。これまでの研究結果に基づいて、2年目に計画している照準動作制御法の確立も順調に進めることができると考えている。 また、万一、放たれた矢がリングから逸れうる場合について、その対策に関しても研究してきた。当たり前のことではあるが、橋梁では自動車が走っている。もし、タイミングが悪く、射出の瞬間に強い振動が生じた場合、その放たれた矢はリングを逸れる恐れがある。また、放たれた矢がリングを通過するまでの時間は約1~2秒に過ぎないが、その間に強風が吹かないとも限らない。これらの経緯から、空中で矢の軌跡を変える研究もしている。ただし、現在は、この軌跡を変える研究は途上にある。なお、この検討により風の影響を受けにくくするためには、射出する矢を重く作る必要があることが分かり、そしてその場合、射出能力も大きく作る必要があることも分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
矢を放つ照準動作制御法の確立が2年目の主な研究内容になるが、飛行中に風に流されにくい重量のある矢を射出したいため、高い射出能力を有する射出装置に作り直す。安全に高いポテンシャルエネルギーを蓄え、勢いよく射出するように設計する。また、射出後の矢の回転運動を減らし、安定して矢が飛行できるようにすることも重要である。 リングをカメラで捉え、そこに向けて自動的に矢を放つシステムを構築する。そのためには画像処理が必要となるが、リングの認識をするだけであるため、その難易度は低い。また、矢の形状を考慮に入れた3次元シミュレーションを構築し、そのシミュレーションを用いて、短時間で照準を合わせ、射出できる制御系設計を行う。続いて、その構築した制御系が実験でも問題無くリングに矢を通すことを確認する。 さらに、現在構築されている2次元モーションキャプチャシステムを3次元化する。そして、その構築したシステムを用いて、上述の照準動作制御の実験でも活用する。 また、矢の射出後、リングから矢が逸れないように高速度カメラでリングと矢をリアルタイムに画像処理を行い、逸れそうと判断されたときは瞬時に矢に軌道修正させる研究を行う。そのためにまず、矢を射出後、飛行中に軌道修正が行える矢の開発を行う。そして、実験で軌道修正可能かを確認し、矢の最終形状、および軌道変更方法を検討する。さらに、最終決定した矢の形状を考慮した3次元シミュレーションの作成を行い、矢がリングに通るための理想軌道を導出し、その軌道に沿って矢が飛行可能となるような制御系設計を行う。制御法も1つのみではなく、複数の制御法を構築し、比較することで、制御法の最適化を行う。そして、最適であると判断した制御系を装置に実装し、実験にて軌道変更可能であることを確認する。 以上の結果を踏まえて適宜、論文の投稿を行っていく。
|