研究課題/領域番号 |
22K04659
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
河本 尋子 常葉大学, 社会環境学部, 教授 (10612484)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 災害過程 / 生活再建 / 生活復興 / 援助要請行動 / 被援助行動 |
研究実績の概要 |
本研究では、災害後の長期にわたる生活復興を捉え、その過程における被災者の行動と心理の変容や、分岐・選択等の時系列的展開およびその類型群の解明を目的としている。将来の災害に備え、長期的な視野からみた生活復興上の課題把握および知見の蓄積は不可欠と考える。 令和4年度研究実績では、東日本大震災を事例に、災害後の生活復興過程における援助行動・援助要請行動・被援助行動に着目した内容分析をおこない、それらの行動の違いから生活復興状況の分類を試みた。また、各行動の時系列的な変化と、その関連要素の特定をおこない、情動や価値観の抽出を図った。 研究結果では、各世帯の対応フローをもとに、援助要請行動・被援助行動・援助行動・その他の3(プラス1)層に分けた可視化を通して、援助行動をめぐる各世帯の特徴を把握し、その類似性から世帯を3グループに分けられることが分かった。具体的には、(1)援助多群、(2)援助・被援助バランス群、(3)援助要請・被援助多群、の3つである。 援助多群は、地域に関連する愛他・援助行動が多くみられ、地域活動を通して支えられたと感じてきた世帯群であった。愛他心による状況対応、地域への対人対応、状況コントロールが多くみられ、援助要請行動でも状況対応から状況コントロールにつながっていた。しかし災害から数年を経て見捨てられた感覚を持つようになったのも同群であった。援助・被援助バランス群は、対家族・親族の援助行動が多く。自己コントロールの高低や援助要請・被援助行動が多様である世帯群である。親族との関係から、高い対人資源活用力につながっていた。援助要請・被援助多群は、自宅被害に関連する援助要請・被援助行動が多くみられた世帯群である。同群では、援助要請行動をおこなうことにより対人資源を活用していながらも、状況コントールができず、生活苦となっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本進捗状況の理由としては、近年の新型コロナウイルスによる感染症流行の影響がもっとも大きかったと考えている。本研究の調査では、調査対象者宅への訪問を基本とした、大規模災害の被災地域における調査を想定している。そのため、感染症流行状況の見通しを立てられなかったことにより、調査遂行上の課題が生じた。感染リスク対策や状況の見通しの難しさ等により、別の調査形式への切り替えおよび調査そのものの延期の対応が必要となり、進捗状況に影響した。 今後においては、感染症流行への社会的な対応状況を考慮しながら、計画していたような訪問形式による調査の遂行とデータの収集・蓄積を積極的におこなっていく。また、収集データの分析を順次進め、調査対象者へのフィードバックと分析結果の改良を図る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究実績では、本調査の対象が在宅避難を経験した世帯であった。将来の災害でにおいては、在宅避難の世帯が被災世帯の過半を占め、サイレントマジョリティになり得ることが想定されている。したがって、彼らの生活復興過程の把握は、より実効的な防災施策の検討に不可欠であると考えている。これに加えて、今後においては、応急仮設住宅供与制度利用世帯等、在宅避難以外の被災世帯についても、調査対象に含めていくことを考えている。これにより、さらに全体の網羅的把握につなげていきたい。 また、前年度の研究実績では、調査データの内容分析の一環として、援助行動・被援助行動・援助要請行動等に着目した分類をおこなった。今後においては、こうした分析をさらに発展させ、援助や支援に関する捉え方、周囲との人間関係の深掘り、意思決定におけるさまざまな分岐可能性の明示をおこなうことを考えている。これらをとおして、最終的に時系列的な展開の類型化を図る予定である。 昨今では、新型コロナウイルス感染症流行への対応・反応は、人によってさまざまに異なる現状がある。本調査の依頼を対象世帯におこなう上で、同感染症に対する個々の捉え方の違いが課題になり得ると考えている。そのため、引き続き、感染対策等が必要とされるという認識に基づいて研究・調査に臨むこととする。また、研究実施側の体調管理に加えて、調査依頼時には対象世帯へのより丁寧な説明とともに、十分に感染対策等に配慮していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症流行下の社会的状況から、当初予定していたような調査計画の遂行が困難であった。そのため、被災地域の対象世帯を定期的に訪問するという本調査形態をあらためる必要に迫られたことが最大の理由だったと考えている。 今後の使用計画として、前年度の調査の実施遅延を挽回するべく、対象とする災害事例の被災世帯を継続的に訪問して非構造化面接による調査をおこなっていく計画である。それと並行して、内容分析の手法習得に関連する情報収集・情報交換を積極的におこなう予定である。また、前年度入手が叶わなかった希望備品を整備し、調査データの分析の深化を図っていく計画である。
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