研究課題/領域番号 |
22K04671
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
圓谷 貴夫 熊本大学, 先進マグネシウム国際研究センター, 准教授 (00619869)
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研究分担者 |
安藤 新二 熊本大学, 先進マグネシウム国際研究センター, 教授 (40222781)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / 積層欠陥エネルギー / 第一原理計算 / 非底面すべり / 非調和振動 / 部分転位 |
研究実績の概要 |
今年度は, 第一原理計算手法を主たるアプローチとして純Mg(hcp-Mg)のすべり系の活性化メカニズムを理解することを目的に研究を進めた. 表面スラブモデルを用いて, 純Mgの底面, 柱面, 一次錐面, 二次錐面における一般化積層欠陥エネルギー(Generalized Stacking Fault Energy:GSFE)を計算した. 我々は, 純Mgの二次錐面上の<c+a>刃状転位に着目し,完全転位と部分転位の場合でGSFEを比較した. 部分転位に関しては, Stohrらが実験的な観察から提案している方向に分解した場合のGSFE計算を行った. その結果, 部分転位のGSFEは完全転位の値よりもわずかに大きいことがわかった. しかし, 完全転位と部分転位の両方の場合、すべり方向に垂直な方向の原子座標の緩和を加えると, GSFEが低下し, SFEの大きさが同程度になることが明らかとなった. さらに構造緩和後の原子位置を詳細に調べたところ,完全転位の<c+a>から構造緩和を開始した場合, 部分転位の経路の約半分の地点まで原子が移動した.微小な変位を与えて積層欠陥エネルギーを計算した際の原子に働く力の方向を調べたところ、力の方向が原子層によって異なり、離れた2つの原子が入れ替わる力のベクトル方向であった. これにより、純粋なMgの二次錐面上では非調和な原子振動が顕著に現れる可能性が示唆された. Mg-Y合金の積層欠陥エネルギー評価については, GSFE計算のためには, 安定な結晶構造の情報が必要であるが,その情報は極めて少ない.そこで本研究では,近年,開発が進んでいる結晶構造探索手法(Crystal Structure Prediction)を用いて, Mg-Y合金の構造探索を行い, 六方最密充填構造に類似した安定構造を見出すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度までに, 第一原理計算手法を用いて純Mgの各すべり系での積層欠陥エネルギーの計算方法を確立することができた. Mg-Y合金への拡張を試みたが, 安定な結晶構造が明らかでなかったため, 積層欠陥エネルギーを評価する前に安定構造の探索が必要となった. 同時に, Materials Projectという物質材料データベースから得た準安定なMg-Y合金の結晶構造を用いて底面のみのGSFEの計算を行い, Yの存在により純粋なMgの半分程度まで積層欠陥エネルギーが低下することを確認している. これらの理由から, 現時点で当初計画していた研究目標に対して概ね進展させることができていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, 結晶構造探索で得られたMg-Y合金の構造について, 底面および非底面すべり系のGSFE計算を行う. これにより, 非底面すべりの活動性に対するY原子の影響を理論的に明らかにしたいと考えている. しかし, 積層欠陥エネルギー計算を評価する際に, すべり方向に変位を剛体的に拘束するため, 各すべり面で原子が有限温度での原子ダイナミクスも調べる必要があると考えている. そのため, 純Mgの二次錐面上での非調和的な原子の動きについて, 第一原理分子動力学計算手法を用いて詳しく調査することを計画している. さらに, Yが固溶した場合の各すべり面でのポテンシャルの形状の変化についても調査したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
クラスタ計算機ノードを計上していたが,今年度は大規模計算を全国共同利用施設のスーパーコンピュータを用いて行ったため、スーパーコンピュータ利用負担金と計算データ整理のための人件費に充てた。来年度も、数値シミュレーションの実行のためのスーパーコンピュータの使用料,その実行補助および資料整理補助としての人件費・謝金を計上する。また,現在準備中の英語論文の英文校正費に支出予定である。また,国内外の学会参加のための旅費も支出予定である。
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