研究課題/領域番号 |
22K04678
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研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
研究代表者 |
社本 真一 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 特任研究員 (90235698)
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研究分担者 |
中村 充孝 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (00370445)
飯田 一樹 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 副主任研究員 (00721987)
樹神 克明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (10313115)
山内 宏樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究副主幹 (50367827)
稲村 泰弘 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究副主幹 (80343937)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 中性子散乱 / 動的磁気PDF解析法 / 磁気クラスターダイナミクス / スピン揺らぎ / 大強度陽子加速器施設 / 物質・生命科学実験施設 |
研究実績の概要 |
磁石の性能は、電子の持つスピンの「揺らぎ」と関係しています。これまでこのスピン揺らぎの測定は、スピンに敏感な中性子散乱法により「分散」として測定されてきました。この「分散」は波の性質を持っており、波数とエネルギーとの関係を示しています。したがって、フーリエ変換により波数は距離に変換することができ、理解しやすくなります。しかし、これまで非弾性中性子磁気散乱の測定はデータ強度の不足により、フーリエ変換は困難でした。近年、大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)では、最終目標である1MWの中性子ビーム強度に到達しつつあります。今回、弱いデータ強度にも対応可能な新しい「動的磁気PDF解析法」ソフトウェアを開発し、高強度中性子データを用いることで、スピン揺らぎの対相関による観測に初めて成功しました。 これまでフーリエ変換による解析法は二体分布関数(PDF)解析と呼ばれ、古くからありますが、最近の代表的なものに、1990年の米国アルゴンヌ国立研究所のデータを用いた結晶PDF解析法、1992年の英国ラザフォードアップルトン研究所のデータを用いた動的PDF解析法、2014年仏国のラウエランジュバン研究所のデータを用いた磁気PDF解析法の開発があります。これらはどれも世界的に有名な高強度中性子源施設での成果です。今回、動的磁気PDF解析法という最も強度的に難しい解析法に、日本のJ-PARC/MLFで、初めて成功したのです。 今回開発した解析法やそれを組み込んだソフトウェアの妥当性を調べるために、これまでスピン波がよく調べられているFeTiO3という磁性体を調べ、0.3 nm離れた2つのスピン揺らぎの方向が、エネルギーにより同方向と反対方向の2種類のモードが存在することを観測しました。この研究成果は、昨年12月16日に論文発表と共に科学新聞で紹介されました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開発した動的磁気PDF解析ソフトウェアをJ-PARC/MLFで使われていた画像化解析ソフト「空蝉」に実装し、一般公開しました(空蝉ポータル)。これにより、世界標準のファイルフォーマットのデータ(これまでのdmpファイルに加えて、SPE,又はNXSPE形式)であれば、誰でも解析できるようになりました。開発後に常磁性状態に出現する磁気クラスター相(短距離磁気秩序相)の解析を行っていますが、その中で、第一段階として、ノンコリニア磁気クラスターの逆格子空間の単結晶用シミュレーションソフトを代表者が開発しました。この結果、スピンと散乱ベクトルとの制約が予想外に大きいことがわかりました。弾性磁気散乱では、散乱ベクトルに垂直なスピンの成分だけが、磁気散乱強度として観測されます。Mn3RhSiの(111)では、この効果により、弾性中性子磁気散乱は観測されないにも関わらず、非弾性中性子磁気散乱では強く観測されました。これまでこの強度差は謎でしたが、上記シミュレーションソフトの開発により、その原因がこの効果であることが明らかになりました。この効果では、弾性中性子磁気散乱では消えても、非弾性中性子磁気散乱では消えないと言えます。反対に、動的磁気PDFでは見えていても、磁気PDFでは消える場合があるということがわかりました。その意味で、低エネルギーから測定可能な動的磁気PDFは、非常に汎用性に富むと言えます。これまでに反強磁性・超伝導転移や銅酸化物高温超伝導体のスピンレゾナンスモードの観測に挑戦しました。その結果、非偏極中性子散乱を用いたこの手法では、磁気励起強度がフォノン強度よりも強い必要があるという条件がわかりました。もちろん、それぞれの散乱強度は、散乱ベクトルQの大きさに依存しますので、磁気散乱が観測される5 A-1よりも小さなQ領域で、この条件が必要です。
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今後の研究の推進方策 |
まず今後、開発したソフトウェアを用いて、具体的に何ができるのかを調査する必要があります。上記の条件の他に、その利用例として、以下のものが考えられます。常磁性状態に出現する新規磁気相の解析、アモルファス磁性体、準結晶磁性体、パーコレーション磁性体、モット転移への適用などです。またスピン波計算ソフトウェアSpinWにより、FeTiO3スピン波の動的磁気PDF関数のシミュレーションに成功しましたが、これにはスピン交換相互作用の値が必要でした。今後、これらの値がわからない一般的な磁性体でもシミュレーションできるようにする必要があります。この点については、すでにこれまでにノンコリニア磁気クラスターの逆格子空間の単結晶用シミュレーションソフトを開発しています。これを粉末散乱パターンシミュレーションソフトへと発展させる必要があります。またさらに野心的な発展として、まずは低エネルギーだけでも、リバースモンテカルロ法との組み合わせにより、動的磁気PDF解析をフィットできるソフトの開発が挙げられます。さらにエネルギー依存性をフィットすれば、ナノスピンクラスターなどのスピン間の相互作用もわかるようになります。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担者の方で、昨年度は試料合成に必要な試薬、高圧ガスの購入費用として消耗品費を計上していたが、想定していたよりも少ない回数で良質の試料が得られ、合成した試料の種類も少なかったため、試薬の購入を見送りました。そのため、消耗品費が0となりました。一方、今年度は新たな元素組成の試料合成に必要な試薬、高圧ガスを購入するための費用として、消耗品費を計上しました。また、大型単結晶試料の育成、試料の熱処理などに必要な石英管、タンマン管などの消耗品費も支出予定です。
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