研究課題/領域番号 |
22K04716
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研究機関 | 久留米工業高等専門学校 |
研究代表者 |
森園 靖浩 久留米工業高等専門学校, 材料システム工学科, 教授 (70274694)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 低炭素鋼 / 鉄粉 / グラファイト粉 / 真空 / 浸炭 / 拡散 |
研究実績の概要 |
鋼の浸炭は,その表面の炭素濃度を高めた後に焼入れ・焼戻しを行うことによって,耐摩耗性や耐疲労性を向上させる技術である。工業的に行われている浸炭処理では,炭素を鋼表面から拡散浸透させる際に一酸化炭素や二酸化炭素のような気相を介するため,2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,プロセス改良が必須となる。ところで,我々は,鉄粉を混ぜた炭素粉を使用することで鋼に炭素を容易に拡散浸透させる技術を見出し,それを「鉄粉浸炭」と名付けて調査を続けている。通常は大気中で加熱して鋼を浸炭させているが,これを真空雰囲気で試み,鉄粉とグラファイト粉から成る混合粉から鋼へ,炭素を固相状態で直接的に拡散させることに成功した。そこで本研究では,この「炭素の固相拡散による新規の浸炭技術」を確立するとともに,それを応用して,微小領域に選択的に炭素を拡散させる「局所浸炭」について検討する。 初年度(2022年度)は,【基礎データの収集・混合粉(炭素源)の評価】と【鋼片に対する混合粉の密着促進と焼付き回避】の2つの項目について調査した。特に後者においては,鉄・グラファイト混合粉を使った真空中での鉄粉浸炭を低炭素鋼(0.04 mass%C)に施した際,炭素拡散によって生じた微細組織が不均一になることがあった。この原因として,混合粉と低炭素鋼の接触状態が影響したことが考えられた。そこで,坩堝の底に低炭素鋼を置き,まず少量の混合粉でその上を覆い,タッピングと金属棒によるプレスで十分に密着させてから,残りの混合粉を充填するといった工程へ変更し,改善を図った。すなわち,真空中での鉄粉浸炭では,炭素が気相を介して鋼中へ拡散されないため,炭素源である混合粉と低炭素鋼の密着が極めて重要になるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「科学研究費助成事業 交付申請書」では,2022年度は【基礎データの収集・混合粉(炭素源)の評価】と【鋼片に対する混合粉の密着促進と焼付き回避】の2つの項目に取り組むとしている。 【基礎データの収集・混合粉(炭素源)の評価】「研究実績の概要」で示したように,被処理材である低炭素鋼(0.04 mass%C)と鉄・グラファイト混合粉を坩堝に充填する工程を変更した上で,鉄粉:グラファイト粉=5:5から成る混合粉を使って真空中で鉄粉浸炭を行った。鋼表面では炭素の拡散に伴ってパーライトが生じ,混合粉からの直接的な炭素拡散によって浸炭が可能であることをあらためて確認した。しかし,パーライトの生成量は,大気中で実施した場合に比べて明らかに少なかった。そこで,混合粉(炭素源)側の炭素含有量を増やし,鋼との炭素濃度差を大きくすることでパーライト量の増加を図った。具体的には,①高炭素の鉄粉を使用する,②混合粉中のグラファイト粉の割合を増加させる,の2点であった。いずれの場合もパーライト量を著しく増加させるには至らず,加熱温度や保持時間などの熱処理条件の見直しが必要であるとの結論に至った。 【鋼片に対する混合粉の密着促進と焼付き回避】真空中での鉄粉浸炭では,混合粉と低炭素鋼の密着が重要になる。しかし,このことは熱処理後の鋼表面において粉末が焼付く原因にもなる。そこで,焼付き防止のために鋼を「紙」で包んでから浸炭を試みた。しかしながら,炭素は鋼中にほとんど拡散していないことがわかった。予想外の結果であったが,「局所浸炭」を行う際のマスキング材として「紙」が利用可能であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,2022年度に引き続き,【基礎データの収集・混合粉(炭素源)の評価】と【鋼片に対する混合粉の密着促進と焼付き回避】に重点を置いて取り組む。また,2024年度の【局所浸炭への展開】に向けた予備実験も開始する。 【基礎データの収集・混合粉(炭素源)の評価】低炭素鋼(0.04 mass%C)を大気中で鉄粉浸炭した場合のデータを再度収集し(熱処理時の昇温速度が異なり,過去に得られたデータをそのまま利用できなかったため),真空中で鉄粉浸炭した場合と比較する。さらに,鋼の表面付近におけるパーライトの生成量と加熱温度・保持時間の関係を調査し,真空中であっても効率よく炭素を拡散させるための指針を得る。 【鋼片に対する混合粉の密着促進と焼付き回避】加熱前の“密着”と熱処理後の“分離”は相反する問題である。このため,低炭素鋼への粉末の焼付きを防止するための手段を検討する。焼き固まった鉄・グラファイト混合粉(炭素源)から浸炭された低炭素鋼を回収するため,①炭素の拡散媒体としても利用可能な“分離層”を導入する,②鉄・グラファイト混合粉にアルミナ粉を添加し,これらの粉末の最適な割合を調査する,の2点について取り組む。 【局所浸炭への展開】真空中で鉄粉浸炭を行う際,低炭素鋼の一部を「紙」で覆い,局所浸炭で利用可能な,安価でかつ簡便なマスキング材として「紙」の有効性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の残額は96,256円であった。研究実施のための備品・消耗品を十分に購入できたため,残額を次年度の消耗品・旅費として使用することが適切と考えた。
2023年度の研究費は『消耗品費』・『国内旅費』・『その他』として使用する。『消耗品費』では,「金属素材」をはじめ,試料の切断・研磨作業に用いる「ダイヤモンド砥石・研磨剤」,研磨後のエッチング等に用いる「化学薬品」,熱処理に要する「ルツボ」などが主たる購入物品である。また『国内旅費』では,日本金属学会の講演大会(年2回開催)に参加し,成果発表や情報収集を行う予定である。『その他』の項目からは,論文誌に発表するための「研究成果投稿料」を支出する。
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