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2022 年度 実施状況報告書

セルロースナノファイバーと生分解性樹脂を用いた環境調和型塗料の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22K04738
研究機関大阪大学

研究代表者

花木 宏修  大阪大学, 大学院工学研究科, 招へい准教授 (20336829)

研究分担者 倉敷 哲生  大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (30294028)
山下 正人  大阪大学, 大学院工学研究科, 招へい教授 (60291960)
藤本 愼司  大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (70199371)
向山 和孝  大阪大学, 大学院工学研究科, 特任研究員 (80743400)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードセルロースナノファイバー / 生分解性樹脂 / 環境調和型塗料 / さびの構造制御
研究実績の概要

本研究では、鋼構造物の表面に防食性を有する安定な錆層を形成させ、自身はその目的達成後に自然環境中で分解・消失する環境調和型塗料を開発している。具体的には、生分解性樹脂を母材とし、そこへセルロースナノファイバー(以下、CNFと記述)を分散させる。さらに、錆の構造を制御するための金属イオン(以下、有効イオン種と記述)を添加する。CNFは一般に強度が低いとされる生分解性樹脂の力学的特性の改善と同時に、鋼材表面への水、酸素の供給量を制御する役割を担う。 CNFを通じて供給される酸素、水と有効イオン種が反応し、鋼材表面に安定かつ防食性を示す錆を形成させる。一方で、CNFと母材である樹脂は錆の形成に伴い自然環境中で分解し、最終的に鋼材表面には安定な錆層のみが形成され、その後は生成した錆層が構造物を大気環境から保護する。従来の塗料による防食では、塗り替え時において多大な労力が必要であり、粉塵の排出など環境負荷も大きかった。また、長期間の使用における耐久性を要求されることから、生分解性樹脂の使用も困難であった。これに対し、本研究で開発する塗料は鋼材表面における安定な錆層を育成させるための環境調整を目的としており、最小限のエネルギーで鋼材の表面のみを熱力学的に安定な状態に到達させることを目的とした新規な防食技術である。
本年度は、母材となる生分解性樹脂の選定、CNFの添加量および分散方法の検討および添加する有効イオン種の選定および添加量に関する検討を実施し、環境調和型塗料を試作した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は環境調和型塗料の試作とSAEJ2334に準拠した乾湿繰り返しサイクル試験による評価を中心に実験、検討を実施した。また、生分解試験を実施するための実験系の構築と予備実験を実施した。
環境調和型塗料の母材となる生分解性樹脂においては、CNFとの相性の観点から水分散型(エマルジョン)であることを条件として選定し、最終的にGSアライアンス社の水系100%天然バイオマスコーティング材料を用いることとした。本樹脂に対し数wt.%~10wt.%程度のCNFを添加したところ、いずれの条件においても良好な分散状態を確認できた。
添加する有効イオン種に関しては、陽イオンとして錆の構造を制御するアルミニウム、ニッケル、亜鉛およびマグネシウムを候補とした。これらのイオンを含有する金属塩を樹脂に添加し、塗料として使用可能であるか(凝集等が発生しないか)を確認した。
以上の検討により試作した環境調和型塗料を既に錆が発生した鋼材表面に塗布し、SAEJ2334に準拠した乾湿繰り返しサイクル試験による評価を実施した。SAEJ2334試験はこれまでの知見から塩水噴霧試験(SST)やCCT試験よりも実環境に近いさびの生成を再現可能である。腐食試験後、走査型電子顕微鏡観察やXRDによる構造解析を実施した。試験条件にもよるが、特定の組み合わせでゲ-サイトやマグネタイトの成長が確認できた。ゲーサイトはオキシ水酸化鉄の異性体のなかでも熱力学的に安定性で高い耐食性を示すことが知られている。また、マグネタイトにおいても構造中に特定のイオンを含むことにより安定化することが知られており、耐食性の発現が期待できる結果が得られた。
これら一連の実験に関して、研究代表者および分担者に加え、分担者の所属する大阪大学大学院ビジネスエンジニアリング専攻の大学院生 野原多朗が研究協力者として参画し実験に従事した。

今後の研究の推進方策

前年度に引き続き、環境調和型塗料の試作と性能向上を狙う。具体的には(1)母材となる生分解性樹脂の選定、(2)CNFの添加量および分散方法の検討および(3)添加する有効イオン種の選定および添加量に関する検討を引き続き実施する。本研究では、有効イオン種としてアルミニウムやニッケルなどの陽イオンを金属塩で添加している。同時に添加される、陰イオンは腐食反応の促進や樹脂の分解速度を制御する役割を担う。また、陽イオンと陰イオンの組み合わせにより水への溶解度も変化することから、これらの組み合わせについても検討する。
試作した塗料の評価においては、前年度の分散性に加え、塗膜の機械的特性評価、透水率、ガス透過率の測定を予定している。また、腐食試験後の錆の評価においては前年度の表面観察や構造解析に加え、電気化学試験、生分解性試験を実施する。機械的特性評価は分担者である倉敷、向山らを中心に実施し、複合材としての基本的な特性に加え、鋼材への密着性を評価する。電気化学試験は分担者である藤本、山下らを中心に実施する。生分解性試験は海洋中での分解能を評価することが好ましいが、第一段階として広く用いられている水系での好気的生分解性試験(JIS K 6950, ISO14851)に基づいたスクリーニングを実施する。また、第二段階においては海洋環境を模擬した試験を実施する。本研究で開発する塗料は使用環境において適度な速度で分解することが望ましく、樹脂成分とCNF添加量による分解速度の制御を試みる。
これら一連の実験に関して、研究代表者および分担者に加え、分担者の所属する大阪大学大学院ビジネスエンジニアリング専攻の大学院生 野原多朗が引き続き研究協力者として参画する。

次年度使用額が生じた理由

2022年度はコロナの影響により学会等への出張が困難であったこと、樹脂の入手に時間がかかり機械的特性評価を次年度にまわしたことにより未使用が生じた。この未使用額は2023年度に同様の目的のため使用する予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2022

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 発生炭素鋼におけるカソード反応に及ぼす金属塩の影響2022

    • 著者名/発表者名
      山下正人,焦京鈺,阿賀一朗 他4名
    • 学会等名
      第69回材料と環境討論会

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公開日: 2023-12-25  

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