研究課題/領域番号 |
22K04740
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
増村 拓朗 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40804688)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルテンサイト / 加工誘起マルテンサイト / オーステナイト / ステンレス / X線ラインプロファイル / 積層欠陥エネルギー |
研究実績の概要 |
本年度では、加工誘起マルテンサイトの性質を制御することを目的として、加工誘起変態前のオーステナイト転位密度を変化させるために、積層欠陥エネルギーの異なるオーステナイト系ステンレス鋼を用意した。低積層欠陥エネルギー材としてFe-18Cr-10Ni合金、高積層欠陥エネルギー材としてCuやAlを添加したFe-16Cr-9Ni-2Cu-1Al合金を選定した。両者はオーステナイトの機械的安定度が揃うようにCrやNi量を調整している。 両試料の加工に対するオーステナイトの転位密度変化をX線ラインプロファイル解析により調査した結果、積層欠陥エネルギーが低いFe-18Cr-10Ni合金のほうが転位密度の増加速度が大きいこと、加工されたオーステナイトのナノ硬さが高いことが明らかとなった。これは、積層欠陥エネルギーが低いため、転位の交差すべりが生じにくく、転位蓄積が生じやすいためであると考えられる。また、Fe-18Cr-10Ni合金ではεマルテンサイトが生成していたのに対し、積層欠陥エネルギーが高いFe-16Cr-9Ni-2Cu-1Al合金ではεマルテンサイトや変形双晶の形成が抑制されていた。 両試料の加工誘起マルテンサイトの転位密度は、Fe-18Cr-10Ni合金のほうが高かった。これは、加工誘起変態前のオーステナイトの転位密度が高いこと、εマルテンサイトを経由するγ→ε→α'という二段階のマルテンサイト変態が生じていることに起因すると考えられる。以上の結果より、加工誘起マルテンサイトの転位密度および硬さは、変態前のオーステナイトの性質に大きく依存するということが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、加工誘起変態前のオーステナイトの性質を変化させ、加工誘起マルテンサイトの形成過程を制御することができた。その結果、変態前のオーステナイトの性質がマルテンサイトの組織および機械的性質に大きな影響を与えることが明らかとなったため、順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、焼入れマルテンサイトの組織制御に着目する予定にしている。具体的には、(1)通常の焼入れ処理、(2)未再結晶域での熱間(温間)圧延後の焼入れ処理、(3)再結晶域での熱間(温間)圧延後の焼入れ処理、(4) 2と3を組み合わせた処理を行い、焼入れマルテンサイト形成前のオーステナイトの性質を種々変化させ、転位密度や硬さ、組織変化を調査する予定にしている。
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