研究課題/領域番号 |
22K04742
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研究機関 | 東北工業大学 |
研究代表者 |
丸尾 容子 東北工業大学, 工学部, 教授 (50545845)
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研究分担者 |
辛島 彰洋 東北工業大学, 工学部, 准教授 (40374988)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 簡易分析 / 多孔質ガラス / アルデヒド / β-ジケトン / 生体ガス / 比色反応 / 蛍光反応 |
研究実績の概要 |
生体ガスはヒトの健康状態及び病態と密接に関連しており、採取が容易な非侵襲のバイオマーカである。乳がん、肺がん及び感染症の場合呼気中のアルデヒド濃度の増加が報告されており呼気中アルデヒド濃度の常時モニタリングにより病気の早期発見や健康状態の管理が可能になる。 本年度はC1~C10アルデヒドを検出対象として莫大な表面積をもつが孔径が小さいために可視領域で散乱が起こらない透明ナノ多孔体(多孔質ガラス)を基板として用い、その孔内でおこるβ-ジケトンとアルデヒドの脱水・環化反応の結果生じるルチジン誘導体を吸収及び蛍光の両方法で検出しアルデヒド濃度を定量する方法を検討した。 β-ジケトンとしてはアセト酢酸エチルを用いた。溶液系と多孔質ガラス基板上での反応を比較した結果多孔質ガラスを用いた場合、細孔と表面の触媒作用により室温においてもルチジン誘導体が生成することが明らかになった。多孔質ガラス中のアセト酢酸エチルは200-280nmに吸収を有し、アルデヒド類との反応により340-350nmに吸収極大を持ち、波長360-363nmで励起すると445-460nmの蛍光を発するルチジン誘導体が生成し、吸光度変化量又は蛍光強度は曝露アルデヒド(ノナナール)濃度(11~135ppb)と比例関係にあることが明らかになり、この濃度範囲で吸光及び蛍光の両方に対しての検量線を得ることが出来た。比例関係の原因は曝露ノナナールの分子数に対して、多孔質ガラス上のアセト酢酸エチルの分子数が大過剰であったため、反応によるアセト酢酸エチルの減少を考慮しなくてよいためと考えられる。 また連続測定のため流体系を用いた実験の事前検討としてアルデヒドの代わりに装置系への汚染が少ないアセトンを用いて光測定の小型装置を組み立てて連続測定を行い、装置構造や性能の評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標であったβ-ジケトン(アセト酢酸エチル)とC9 アルデヒドの反応の化学量論的解析を順調に進め反応量の評価を行い、検量線を得ることが出来た。 溶液系では60℃の加熱が必要であった反応が、多孔質ガラス上では細孔と表面の触媒作用によって常温常圧においてルチジン誘導が生成されることを明らかにして、反応基板として選定した多孔質ガラス基板の有効性を示すことが出来た。また生成されるルチジン誘導体は紫外域に吸収を有するため吸光と蛍光の両方を用いてアルデヒド濃度の測定が可能であり、両測定を併用することで測定の信頼性を向上することが出来ることを明らかにした。C9 アルデヒドに対して吸光と蛍光の両方で検量線を求めた11ppb~135ppbの濃度範囲において曝露アルデヒド濃度と吸光度又は蛍光強度の直線関係を得ることが出来、低濃度アルデヒド雰囲気が含まれる呼気分析への適用の可能性を示すことが出来た。またそれ以外のC1、C2、C8、C10アルデヒドに対する検量線の傾きを求め干渉性について評価した。 さらに、曝露実験においてはppbレベルのアルデヒド雰囲気を調整するため、技術と方法のノウハウが必要であるが、再現性よく調整する方法を確立した。このような曝露雰囲気調整法における技術の確立は2023年度以降に計画している温湿度特性の評価や流体系と小型測定器を用いた評価実験を精度よく行う基盤となるものであり、1年目にこれらを確立できた意義は大きいと考えられる。 連続測定の検討においても順調にセンシングチップを内蔵する小型測定系を組み立てることが出来た。アルデヒドでの評価はまだ行っていないが、装置系への汚染が比較的少ないアセトンを用いて1分間隔の連続測定を確認し学会での発表を行った。 論文化に対しては低濃度アルデヒド曝露雰囲気調整法の技術を用いて、アルデヒド比色検出方法を検討し、論文にまとめ受理された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進については、概ね当初の計画通り実施していく。ただルチジン誘導体の紫外線に対する不安定性が明らかになってきているので、安定性の評価を行い定量評価の条件を明らかにしていく。またC1~C10アルデヒドに対して感度が一定ではないことも明らかになってきているためその原因を明らかにするため、他のβ-ジケトン(シクロヘキサンジオン、アセチルアセトン等)を用いて反応の解析を行い、また計算化学の手法を併用し考察を行う。 吸収波長及び励起波長と蛍光波長の違いによる選択的検出方法の検討においては、感度の違いを新たなパラメータとして加えた方法の検討を行う。 またアセトンを用いて実験していた連続測定系において、流路の関係よりセンシングチップへの吸着効率が低いことが明らかになったため装置構造の最適化の検討を行う。アセトンにおいて構造の最適化、及び連続測定を確認後、系へのアルデヒドの吸着特性を明らかにしてアルデヒドの検討を開始する。 検出反応として検討予定であったジアミンとアルデヒドとの脱水・環化反応については、溶液系の検討を行った結果通常条件では反応は進行しないことが明らかになったため検討を中止して、ルチジン誘導体の生成反応に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた理由は基板として用いる多孔質ガラスの購入の際、価格と性能を考えこれまで購入していた業者から変更し新規業者から購入を行い価格の低下をはかることが出来たためである。 2023年度は複数のβ-ジケトン用いたセンシングチップの特性の評価を行う。その実験に必要とする薬品・部材の購入を行う。消耗品としてセンシングチップ作製に用いる多孔質ガラス基板及び薬品、曝露実験に用いるテドラーバッグを購入する。またC8及びC9アルデヒドの濃度確認に用いるガスクロの消耗品(シリンジ、注入針、及びキャリアガス)及び蛍光測定に用いる蛍光装置の光源ランプを購入する。また連続測定検討に用いる光学部品の購入を行う。
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