研究課題/領域番号 |
22K04743
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
三谷 祐一郎 東京都市大学, 理工学部, 教授 (60732641)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シリコン窒化薄膜 / 水素 / ナノ欠陥 / エネルギー準位 / 信頼性 |
研究実績の概要 |
幅広い工学分野で注目されているナノスケールシリコン窒化薄膜(窒化ケイ素薄膜)中の局所電子構造(電子捕獲型準位=ナノ欠陥構造)の動的挙動を解明し、電子デバイスの超高信頼性化を実現することを目指し、本研究では独自のマイクロ波励起水素プラズマプロセスを用いた低温非平衡条件下で、シリコン窒化薄膜中のナノ欠陥構造と強い相関を持つとされる水素を制御することを目的に研究を進めている。 2022年度では、濃度1.8E22/cm^3の水素を含む厚さ80nmのシリコン窒化薄膜を用いて、マイクロ波励起水素プラズマ処理を室温で行ったところ、シリコン窒化薄膜の表面10-20nmの範囲で水素濃度が低減し、その水素の起源はSi-H結合であることを実証した。さらに、同シリコン窒化薄膜表面にアルミ電極を形成し電気特性解析によるナノ欠陥構造の定量化を試みたところ、ホールの電気電導現象であるPoole-Frenkel電導に寄与するナノ欠陥構造のエネルギー準位がプラズマ処理時間の増加に伴い1eVから1.6eVまで深くなることが計測・解析より明らかになった。一方、ホール捕獲に寄与するナノ欠陥構造を調べるためにDCTS法(Discharging Current Transient Spectroscopy)を用いて評価・解析を行ったところ、シリコン窒化薄膜中のナノ欠陥構造のエネルギー準位、約0.8eVは変化しないが、その量(トラップ密度)がプラズマ処理時間の増加に伴い減少し、シリコン窒化薄膜のエッチング現象が観測されない最大処理時間9分で、約30%低減することが実証された。 つまり2022年度では、目標とする原子状水素を用いてシリコン窒化薄膜中の水素の量や分布を独立制御可能であることを実証し、次年度に計画されていたシリコン窒化薄膜中の水素起因ナノ欠陥構造の欠陥エネルギー準位の変調が可能であることを前倒しで実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度の計画では、マイクロ波励起水素プラズマ装置を用いて原子状水素を供給し、低温・非平衡条件下でシリコン窒化薄膜中の水素濃度減少過程を系統的に調べることを目標にしていた。結果、マイクロ波励起水素プラズマ処理によって、80nmのシリコン窒化薄膜の表面10-20nmで水素濃度が低減することを二次イオン質量分析法(SIMS: Secondary Ion Mass Spectroscopy)で、またその水素の膜中存在形態がSi-H結合であることを赤外線吸収スペクトル法で実証した。さらに、次年度に予定されていた電気特性解析による水素脱離と膜中ナノ欠陥構造の評価・解析を上記の水素プラズマ処理を施したサンプルで計測したところ、ホール電導に寄与するナノ欠陥構造のエネルギー準位が深くなり、ホール捕獲に寄与するナノ欠陥構造についてエネルギー準位は0.8eVと変化しないが、電荷捕獲密度が約30%低減することを前倒しして実証できた。また、電気特性評価技術として、膜中の電荷捕獲位置を推定する方法である荷電中心位置の計測・解析手法を立ち上げ、その有用性を検証することができた。同様に、高精度X線光電子分光法による窒化物薄膜の結合状態の評価・計測の有効性を検証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に実施する具体的な研究のポイントは下記の2つとなる。 (1)水素起因ナノ欠陥構造と電子伝導及び電子捕獲特性との相関 2022年度では、シリコン窒化薄膜中の水素を制御することでホール伝導及びホール捕獲に寄与するナノ欠陥構造のエネルギー準位とその量(トラップ密度)の変調を実験的に捉まえることができた。しかし、電子デバイスにおいては電子と正孔に対する特性が性能上重要である事から、今後は電子についても水素起因ナノ欠陥構造との相関を明らかにする研究を進める。例えば、伝導特性や捕獲特性を調べるにあたり、シリコン窒化薄膜とシリコン基板との間に、バンドギャップ(禁制帯幅)の大きいシリコン酸化薄膜を挟むことにより、ホール伝導やホール捕獲を抑制することができ、電子に対する情報を得ることが可能となる。 (2)ナノ欠陥構造の動的挙動(信頼性)のモデル化 ナノ欠陥構造の動的挙動はMONOS(Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Semiconductor)キャパシタを用いてナノ欠陥構造への電荷捕獲の時間依存性で計測する。このナノ欠陥構造への電荷捕獲の時間依存性の計測は、2022年度に前倒しで確立した荷電中心位置計測技術を用いる。高電圧印加などによる電気的ストレス下での残留水素量に応じた電荷捕獲分布や電荷移動を調べることにより、シリコン窒化薄膜の信頼性と膜中水素の相関を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(\14,178)は、外注分析費において研究計画上見越していた金額に比べて誤差(割引)を生じたため発生。これを翌年度(2023年度)の助成金に加え、ナノ欠陥構造の電気計測に必要な約2回分の液体窒素充填量に回すことにより、評価回数を増やし、より高精度なモデル構築につながるデータ取得に使用する予定である。
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