研究課題/領域番号 |
22K04747
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
染川 英俊 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (50391222)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マグネシウム / 極低温 / 変形双晶 / 力学特性 / 変形機構 / 偏析 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づき下記二件について実施した。 二元系バルク材の創製とその微細組織観察:Mgに固溶する元素(Al, Sn, Y, Znなど)を対象に、二元系希薄Mg合金を重力鋳造にて溶製した。容体化処理後、温間押出加工によって底面集合組織と結晶粒サイズ:15~20umを制御した展伸バルク材を創製した。各展伸バルク材に対し、室温にて数%程度の圧縮ひずみを導入した後、溶質元素を双晶界面に偏析させるため、150℃にて2~4時間の条件で熱処理を実施した。各熱処理材の微細組織をEBSDとTEMを用いて観察した結果、添加元素の種類に関係なく溶質元素が双晶界面に偏析していることが分かった。また、前記熱処理条件内であれば、結晶粒の粗大化や集合組織の弱化が起こらず、巨視的な微細組織様相が維持できることも確認した。 極低温の基礎的特性評価:結晶粒サイズの異なる三種類(~3um, ~15um, ~40um)の汎用Mg合金(Mg-Al-Zn:AZ31合金)押出材を対象に、極低温:77Kにおける力学応答および破壊挙動について調査した。極低温強度は結晶粒サイズ微細化にともない向上し、その強度は室温強度と比較して5割以上高い値を示すことを確認した。変形機構および破壊形態も結晶粒サイズに影響を受け、粗大粒材と中間粒材は、破壊の起点となる変形双晶を高密度に形成し、いずれも脆性破面を呈した。他方、微細粒材では、極低温環境下であっても非底面転位が活動し、これらの転位運動によって変形双晶の形成が抑制されることを究明した。室温塑性応答と同様、結晶粒サイズの微細化が極低温時の高強度化、脆弱化改善に有効であることを示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の本年度研究計画では、①研究課題で使用する二元系希薄バルク材の創製とその微細組織の確認、②汎用Mg合金を対象とした極低温に関する基礎的特性評価の実施を予定していた。前者について、添加元素の種類に関係なく、同程度の結晶粒サイズからなり、双晶界面偏析したバルク材創製に至っている。これらは当該研究課題申請時と合致した試料である。後者について、結晶粒サイズの異なるAZ31合金押出材を対象に、極低温力学特性と破壊、変形機構に及ぼす結晶粒サイズの影響について調査し、既に、学術誌掲載に至っている。当初計画どおりに実行し、結果取得や成果発信できていることから、「概ね順調に進んでいる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度準備した双晶界面に溶質元素が偏析したオリジナル試料:二元系希薄合金を対象に、極低温力学特性に関するデータ取得と、破壊・変形機構を理解することに注力する。加えて、溶質元素の特異性を識別し、これらの役割について理解を深化させるため、前記二元系合金の室温応答ならびに純Mgの室温・極低温応答も調査する予定である。また、明瞭な差異を呈する二元系合金については、極低温環境下における微小き裂核生成に着目した局所粒界・界面塑性評価を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Mg合金の加工熱処理に関する経験と知見を活かし、本研究課題遂行に合致した微細組織からなるバルク材を当初予定より早期に創製することができた。また、微細組織試料の作製と観察は、所属機構内の共用装置であるFIBとTEMを用いたが、今まで培ってきた非鉄金属材料の試料作製、観察ノウハウを活用し、想定よりも短期間で対応することができた。以上のことから、材料創製関連費、共用装置使用費に差額が生じた。 次年度は、溶質元素の役割を理解するため、オリジナル試料:二元系希薄合金の極低温応答だけでなく、これら二元系合金の室温応答と純Mgの室温・極低温応答も調査する予定である。そのため、試験片数が当初想定よりも増えることが考えられる。寸法精度が要求される試験片加工費に充当し、データの蓄積ならびに取得値の差異検証に活用する予定である。
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