研究課題/領域番号 |
22K04748
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
陳 進華 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員 (30370430)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | リチウム捕集 / 電気透析 / グラフト重合 / 高分子電解質膜 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、塩湖かん水からのリチウムイオン捕集用電気透析システムの開発である。電気透析システムは、陽極室、陰極室、および電解質隔膜で構成されている。電解質隔膜は、リチウムイオンに高い透過性を持ちながら、他の金属イオンの透過性を抑制する。それにより、リチウムイオンは直流負荷により陰極室に濃縮される。つまり、電解質膜には高いリチウムイオン選択透過性と伝導性が要求される。 本研究では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルムを出発材とし、放射線によるスチレン(St)をフィルム中にグラフト重合することでPVDF-g-St膜を得た。次に、スルホン化反応と加水分解を経てPVDF型高分子電解質膜(PEM)を得た。この高分子電解質膜は機械的・化学的安定性が高く、リチウムイオンに対し高い伝導性を示した。得られた電解質膜2枚を電気透析システムにセットし、2枚の膜の間に塩化鉄のリン酸トリブチル溶液を注入した。陽極室は、同濃度のリチウムイオンとナトリウムイオンからなる混合溶液を流した。直流電流によりこれらの陽イオンを陽極室から陰極室へ移動させ、電気透析を行った。 その結果、陰極室には、リチウムイオンの濃度はナトリウムイオンの濃度より明らかに高く、リチウムイオンの透過性はナトリウムイオンより約 4 倍ほど高いことが分かった。今後は、これらの電解質膜をさらに改良し、リチウムイオンの選択透過性及び透過速度を向上させ、リチウムイオン回収に適した高性能電気透析システムの創出を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、提案されたリチウム捕集システムの有効性を確認することである。そのため、様々な電気透析セルを設計・試作した。試運転中に、電気透析セルの各室の寸法がイオンの移動速度に大きな影響を与えることが分かった。また、中間溶媒室の溶媒の両側隔膜への拡散浸透が膜寿命に大きな影響を与えることもわかった。そのため、電気透析セルの改良と高い化学安定性を持つ高分子電解質膜の作製が行われた。グラフト重合型電解質膜の作製には、膜の化学的・物理的特性とリチウムイオン伝導性の両立が必要であり、そのための作製条件の最適化を実施した。また、リン酸トリブチル溶液の溶出・流出を防止するために、電気透析セルの設計に工夫が施された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、リチウム捕集システムの重要な組成部分である電解質隔膜の開発を進めていく。従来の無機電解質膜はリチウムイオンに対して高い選択透過性を持っているが、リチウムイオンの透過速度が低く、実用化に至っていなかった。そこで、無機電解質膜と有機電解質膜のそれぞれの特性を生かし、ハイブリッド電解質膜の製造を試みる。また、リチウムイオン選択捕集材の開発を行い、その捕集材を利用することでリン酸トリブチル不要の電気透析システムの開発を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の学術交流がオンラインで行われたため、旅費を節約した。未使用分は、次年度の電解質膜の合成に必要な化学薬剤を購入する。
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