研究課題/領域番号 |
22K04758
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
西村 克彦 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 名誉教授 (70218189)
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研究分担者 |
松田 健二 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 教授 (00209553)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アルミニウム合金 / 水素脆性 / ミュオンスピン緩和法 / 第一原理計算 / 組織観察 / 原子空孔 / ナノクラスタ |
研究実績の概要 |
金属材料の水素脆性は広く知られた現象だが、金属中水素原子の直接観察の困難さにより、拡散や捕獲に関する実験的データは限定されている。水素ガス・液体の安全な運搬・利用を推進するためには、保管・運送に利用する金属材料の水素脆性対策が求められる。一般に6000系アルミ合金は耐水素脆性に優れているが、Cuを除去した純粋なAl-Mg-Si合金は耐水素脆性が相対的に低い。Cuが水素原子の拡散を抑制し、水素脆化を抑制していることが伺える。本研究では、近年実験精度が飛躍的に向上したミュオンスピン緩和法を応用し、6000系アルミ合金中の水素原子の捕獲位置と拡散挙動を解明する。更に、X線吸収微細構造法および中性子小角散乱法を組み合わせて水素原子拡散を抑制する原子クラスタ構造を解明し、水素脆性を抑制する工業的手法を得て、水素エネルギー社会の安全基盤を構築する。 正ミュオンは電荷がe+で、質量が水素の約9分の1であるため、物質中では軽い水素のように振る舞うことが知られている。 この特徴を利用して、Al-Mg、Al-Ti、Al-V、Al-Cu合金のミュオンスピン緩和実験を行い、ミュオンスピン緩和率およびトラップ率の温度依存性を調べ、そこから溶質元素―ミュオンおよび溶質原子―原子空孔-ミュオンの結合エネルギーを評価した。 これらの実験結果は、密度汎関数計算から得られたAl中の溶質原子-水素および溶質原子-原子空孔-水素の結合エネルギーと比較された。結果、観測された緩和率またはトップ率のピーク温度とDFT計算で得た、溶質原子―水素、溶質元素-原子空孔―水素の結合エネルギー値の間に、顕著な直線関係があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミュオンスピン緩和実験では申請した課題がすべて採択され、計画通りのデータ収集・解析を行い、成果を軽金属学会、国際会議、学術論文として公表している。中性子回折実験を実施し、解析が進行中である。放射光実験については、研究協力者と実験内容の検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
Al-Mg、Al-Ti、Al-V、Al-Cu合金のミュオンスピン緩和実験を行い、ミュオンスピン緩和率およびトラップ率のピーク温度と密度汎関数計算から得られたAl中の溶質原子-水素および溶質原子-原子空孔-水素の結合エネルギー値の間に、顕著な直線関係があることがわかった。つまり、ミュオン緩和率の温度依存性から、アルミニウム合金中の水素と溶質元素および原子空孔の結合エネルギーを推測する手段を見出した。今後は、他のアルミニウム中の溶質元素に拡充し、ミュオンスピン緩和法を利用した水素動力学研究を発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
連合王国のラザフォード・アップルトン研究所で実施する計画のミュオンスピン緩和実験を国際情勢が不安となったため延期した。情勢が落ち着き次第、渡航して実験を実施する。
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