研究課題/領域番号 |
22K04760
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
日野 隆太郎 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 准教授 (10283160)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超高張力鋼板 / アルミニウム板 / 応力緩和 / 曲げ試験 / スプリングバック / 時間依存スプリングバック / 曲げ保持 |
研究実績の概要 |
研究計画に記載された4つの実施内容(①曲げ試験におけるスプリングバックの時間非依存成分・時間依存成分の観察,②基本的材料特性の取得,③材料モデルの検討と時間依存スプリングバック解析,④時間依存スプリングバック抑制法の検討)のうち,2022年度に実験準備を進めていた①の曲げ試験を実施するとともに,②についても引き続き材料試験を実施した.供試材としては2022年度と同様に1180MPa級の超高張力鋼板118Y(二相鋼,板厚1.2mm)およびアルミニウム板A1050-O(板厚2.0mm)を使用した. ①の曲げ試験については折り曲げ試験(L曲げ試験)を曲げ半径2条件において曲げ保持(下死点保持)あり・なしの場合について実施し,スプリングバック角度の時間非依存成分θ(除荷時の角度変化)・時間依存成分Δθ(除荷後の角度変化)・総スプリングバック量θ+Δθを詳細に観察した.その結果,(1)曲げ保持によりθ+Δθは減少すること,(2)θ+Δθの減少の大部分はθの減少に起因すること,(3)曲げ保持によるθおよびθ+Δθの減少率は118Y材よりもA1050-O材の方が大きく,曲げ半径が大きいほど大きいこと,(4)曲げ保持によりΔθも減少する傾向にあるがその変化量は非常に小さいこと,(5)除荷後の時間経過に伴うΔθの増加について,118Y材のΔθの増加は除荷後2日で収束する傾向にあるがA1050-O材のそれは増加傾向が続くこと,(6)θ+Δθに対するΔθの割合をr=Δθ/(θ+Δθ)とすると,rは基本的に材料によって決まり曲げ半径にはほとんど依存しないこと,(7)118Y材のrは曲げ保持の影響をあまり受けないがA1050-O材のrは曲げ保持により増大することなどが明らかとなった.②の材料試験については,引き続き種々の負荷・除荷条件における応力緩和特性を調査した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2種の供試材について折り曲げ試験(L曲げ試験)を実施し,スプリングバック角度の時間非依存成分θ(除荷時の角度変化)・時間依存成分Δθ(除荷後の角度変化)・総スプリングバック量θ+Δθに対する曲げ半径や曲げ保持の影響,除荷後の時間経過に伴うΔθの変化などについて多くの実験データを得ることができた.2023年度に得られたこれらの実験データは本研究の中核となる重要な知見であり,本研究における大きな進展であるといえる. また字数の制約から「研究実績の概要」では述べられなかったが,A1050-O材の応力緩和試験においては引張負荷後に中途除荷と緩和を繰り返す段階的除荷・緩和試験,引張負荷・完全除荷後に負荷と緩和を繰り返す段階的除荷・緩和試験などを実施し,負荷・除荷履歴が正の応力緩和(応力減少)や負の応力緩和(応力増加)といった緩和挙動に及ぼす影響を調査することができた.これらの知見は今後の材料モデル検討に向けての重要な進展である. 一方,曲げ試験に多くの時間を割いたことから,2023年度に着手予定であった材料モデルの検討とその材料パラメータ決定ならびに曲げ解析に関しては依然として準備段階にある.以上の状況から,おおむね順調な進展であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度・2023年度に得られた供試材の諸特性(応力-ひずみ関係,応力緩和特性,バウシンガー効果,見かけのヤング率の塑性ひずみ依存性)を記述できる材料モデルの検討とその材料パラメータ決定を行う.現時点では移動硬化を考慮した,過応力理論に基づく統一型構成式をベースとして検討を行うことを想定している.構成式検討において考慮すべき重要事項として,中途除荷などで応力が降伏曲面内にあるときの緩和挙動をどのように表現するかということが挙げられる.また構築した材料モデルによるスプリングバック解析を実施する.均等曲げを想定した簡易解析により解析の妥当性を確認する.この解析で重要なことは,スプリングバックの時間非依存成分・時間依存成分双方の表現性を確保することである. またスプリングバック・時間依存スプリングバックの抑制法についての検討を行う.2023年度の曲げ試験で確認された曲げ保持(下死点保持)によるスプリングバック・時間依存スプリングバックの低減効果について更なる検討を進めるとともに,曲げ部の加熱によるスプリングバック・時間依存スプリングバックの低減についても調査したい. 併せて応力緩和試験と曲げ試験も必要に応じて実施する.応力緩和試験としてはとくに引張り・除荷・反転圧縮後の緩和特性や,ひずみ速度や温度を変更した条件下での緩和特性について調査し,材料モデルの高精度化に資する実験データを得たい.曲げ試験については,2023年度に実施した折り曲げ試験(L曲げ試験)を継続実施しデータを蓄積するとともに,ドローベンド試験も実施したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる理由は,試験片加工費の多くを別財源から支出できたことである.また,2023年度は航空運賃や宿泊費が高騰しかつ円安の状況下でフランスにて開催された国際会議(Proceedings of the 14th International Conference on the Technology of Plasticity - Current Trends in the Technology of Plasticity (ICTP2023))に参加するため,実験系消耗品費なども可能な限り別財源から支出して経費使用を極力抑えたことも理由の一つである.2024年度分として請求した助成金は,当初予定どおり,曲げ試験・応力緩和試験などの試験片加工費,各種の実験用消耗品費,国内学会参加旅費などに使用することを計画している.
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