研究課題/領域番号 |
22K04767
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研究機関 | 長岡工業高等専門学校 |
研究代表者 |
平井 誠 長岡工業高等専門学校, 電気電子システム工学科, 准教授 (00534455)
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研究分担者 |
藤田 直幸 奈良工業高等専門学校, 電気工学科, 教授 (90249813)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | レーザー誘起改質法 / 光電気化学的水分解 / 電子貯蔵型光電極 / 酸化物半導体 / 水素生成 |
研究実績の概要 |
本研究では、光電気化学 (PEC) 水分解による効率的な水素生成が実現できるレーザープロセスを開発する。提案手法では、透明導電性基板の代わりに、安価なタングステン (W) の金属プレートを用いる。さらに、大気圧・室温下でレーザー処理することで、W の表面を 三酸化タングステン (WO3) 層に改質させる。酸化物層の形成は、レーザー光が金属により吸収され、W 表面の温度が局部的に上昇することで起こる。 研究では、Advanced Optowave 社製の Nd:YVO4 レーザー (λ= 532 nm) と Nd:YAG レーザー (λ= 355 nm) を用い、10 [kHz] の繰り返し周波数で表面改質を行った。実験系ではレーザー光をビームエキスパンダーで拡大し、ガルバノスキャナにおいて、回転軸に取り付けたミラーを高速・高精度に制御して走査する。そして、f-θレンズを通すことで、走査エリア内における均一なビーム径が基材上で実現できる。ガルバノスキャナにより、Wプレート表面上の 5×5 [mm] の領域に照射間隔を変え平行線を描画した。 レーザーが照射された部分は灰白色から黒色になった。大気中の熱処理では 400~500 [℃] の間で W プレート表面が黒色に変った。また、四端子法による測定結果から、レーザー光で処理した表面は、400 [℃] で熱処理をしたサンプルと近い抵抗値を示した。さらにレーザーの照射回数を重ねることで抵抗値が増大したことから、レーザー照射により酸化の進行を制御できた。 ソーラーシュミレーターを用いた水素生成の実験において、λ= 355 [nm]、0.3 [W] のレーザーで処理したサンプルで僅かに光電流を計測できたが、効果的な水素生成には繋がっていない。従って、レーザーの照射条件を更に最適化することによって、酸化の進行を促進させる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レーザー誘起改質の前に、Wプレートを大気中で熱処理したサンプルの表面状態、結晶性、抵抗、PEC 水分解特性を調査した。X線回折 (XRD) による結晶性の評価より、W プレート表面に WO3 の結晶相が現れるのは、大気中で 400 [℃] 以上の温度で熱処理をした場合であった。熱処理したサンプルとの比較から、レーザーの照射条件を変化させて作製したサンプルの酸化状態を判断した。 レーザー照射の実験では、波長の異なる二台のレーザーを用いた。四端子法の結果から、両レーザーにおいて、照射回数が増加するほど抵抗値が上昇した。また、繰り返し周波数を 10 [kHz] に固定してエネルギーを変化させた結果、λ= 532 [nm]、E = 1.0 [W] とλ= 355 [nm]、E = 0.3 [W] で処理した各サンプルの抵抗値がほぼ同じになった。これより吸収率の高い波長λ= 355 [nm] で処理した方がエネルギー効率が高いと言える。 現状、抵抗値の比較から、λ= 355 [nm] で処理した表面は、400 [℃] で熱処理したものと同程度の状態であると言える。一方、このサンプルにおいて、光応答性を確認できているが、より効果的な結果を得るには、更に酸化を促進させる必要がある。また、レーザーの照射によって得られたサンプルは、熱処理や成膜したものよりも比表面積が高いので、水素生成の効果をより向上させる可能性がある。 進捗状況として、令和4年度はレーザーの波長、エネルギー、照射間隔、照射回数などのパラメータを大きく変化させて、それらが W プレートの表面酸化に与える影響を詳細に調べることができた。なお、水素生成用サンプルに対しては、30×20 [mm] の広領域にレーザーを照射した。今後は酸化の程度を向上させ、より効果的な光応答性に繋げる必要があるが、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、PEC 水分解による効率的な水素生成が実現できるレーザープロセスを開発する。酸化物半導体光電極に対して、レーザー誘起改質法の有用性を証明するためには、形成される改質層の結晶性、組成、表面粗さ、厚さなどを制御できることが必要不可欠である。これらはレーザー照射条件に強く依存するので、WO3/W 光電極の形状、結晶性、界面構造、吸光度、抵抗率を詳細に分析・評価する。 令和5年度は、特にレーザー処理をしたサンプルの結晶性を評価することが重要になる。現状では、XRD により単斜晶系である WO3 の十分な結晶相を確認できていない。結晶性を向上させて (002) 配向性を持たせることで、電子貯蔵型光電極の形成に繋がる。酸化が不十分な条件のサンプルについては、フーリエ変換赤外分光光度計 (FTIR) を用いて、結合状態を明確にする。これによりレーザー照射条件の最適化がより効率よく行える。 また、石英 (SiO2) 基板を用い W を成膜してからのレーザー処理になるが、紫外可視分光光度計 (UV-Vis) を用い、バンドギャップ (Eg) を計測する。この結果から、レーザー処理したサンプル内で可視域の光エネルギーにより電子が励起し、水素の生成に繋がることを示せる。レーザー処理された表面は比表面積が大幅に増加していると言えるので、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いて解析する。 この他にも、レーザーで処理された層は、樹脂埋め込みによってサンプルを固定し、断面を研磨することで厚みや組織構造を調べる。PEC 特性に関しては、各種成膜法や熱処理のみで作製したサンプルと比較し、金属から酸化物半導体光電極の作製を超短時間で行う本手法の利点を明らかにする。そして、レーザーで処理された WO3/W サンプルにおいても、(002) 配向性と電子貯蔵機能の関係を明確にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
希望する物品が品薄状態であったので、年度内に納入ができなかった。従って、翌年度分として請求した助成金と合わせて、物品費として早々に計上する予定である。
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