研究課題/領域番号 |
22K04784
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
川畑 美絵 (太田美絵) 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 准教授 (30710587)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 粒径分布 / 降伏応力 / 加工硬化 / ホールペッチ則 |
研究実績の概要 |
不均一な結晶粒径分布を有し、かつ微細結晶粒と粗大結晶粒が網目状に周期的に配置する調和組織制御の研究過程で、特異的力学特性である「シナジー硬化」現象を発見した。本研究は、この「シナジー硬化」現象の発現原理の解明を目的としている。「シナジー硬化」とは調和組織材料特有の、ホールペッチ則や複合則で説明できない新しい現象である。微細・粗大結晶粒組織の不均一性と網目状に配置された周期性が、ナノ・ミクロとマクロのスケールで重畳したシナジー効果の結果であると考えられるが、その詳細は解明されていない。 本年度は,実験的に求めた均一組織材料の粒径と降伏応力の関係(Hall-Petch則)の式から,Shell,Coreそれぞれの局所的な降伏応力を推定し,調和組織材の降伏応力との比較検証を行った.これまでの研究では,「シナジー硬化」現象のメカニズム解明を,結晶粒径などの組織因子の観点から検証してきた.さらに考察を深めるには,力学特性からのアプローチが必要との考えから,本年度はShell,Coreそれぞれにおける局所的な降伏応力に着目し,検討を行った.その結果,Shell割合50%の調和組織材料の降伏応力はShellと同等の粒径を有する均一微細組織材料のそれとほぼ等しいこと, Shell割合50%以上の場合においては,調和組織材料の降伏応力は,Shell粒径と同等の粒径を有する均一微細組織材料のそれを上回ることが明らかとなった.これは大変興味深い結果であり,「シナジー硬化」現象のメカニズム解明にとって有意義な,新たな知見であると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調和組織材料では、変形の際に微細結晶粒領域への応力分配が起きることがわかっている。これにより、微細結晶粒領域では、選択的に早期に降伏が開始している可能性が考えられる。これにより、見かけの0.2%耐力が上昇し、微細結晶粒領域ではGN転位の蓄積が進行し、加工硬化が増大することでシナジー硬化が発現するとの仮説を考えている。この仮説の検証として,本年度はShell,Coreそれぞれにおける局所的な降伏応力に着目して研究を行った. 均一組織材料を用いて降伏応力と平均結晶粒径を実測し,本研究に用いる材料における粒径と降伏応力の関係(Hall-Petch則)を求めた.この関係式を用いることで,調和組織材料におけるShellおよびCoreの局所的降伏応力を粒径から予測することが可能となった.これをもとに,複合則(Voigt則,Reuss則)を用いて調和組織材料の降伏応力をShell割合ごとに試算した.その結果,実測された調和組織材料の降伏応力は,複合則の予測の範囲を上回っていることが明らかとなった.また, Shell割合50%の調和組織材料の降伏応力が,Shellと同等の粒径を有する均一微細組織材料のそれとほぼ等しいことがわかった.さらに,Shell割合50%以上の場合においては,調和組織材料の降伏応力は,降伏応力が相対的に低いCoreを含んだ組織であるにもかかわらず,Shell粒径と同等の粒径を有する均一微細組織材料のそれを上回る結果となった.この結果はShellに応力分配が起きていることを示す間接的な証拠なりうると考えられ,今後,その詳細を検証していきたい.
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今後の研究の推進方策 |
「シナジー硬化」は調和組織材料特有の、ホールペッチ則で説明できない新しい力学現象であり,現時点では,微細・粗大結晶粒組織の不均一性と網目状に配置された周期性が、ナノ・ミクロとマクロのスケールで重畳したシナジー効果の結果であると考えられる。不均一結晶粒組織の力学特性に着目したYuntian Zhuらの研究では、結晶粒径勾配により加工硬化が増大することが報告されており、調和組織材に置いては,微細結晶粒への応力分配と結晶粒径勾配により加工硬化が促進される可能性が考えられる. 本年度はShell,Coreそれぞれにおける局所的な降伏応力に着目して検討を行った.その結果,調和組織材料の降伏応力は,Shell粒径と同等の粒径を有する均一微細組織材料のそれを上回ることが明らかとなった.最終年度である令和6年度は,4年度に行った顕微鏡観察や結晶方位解析といった組織学的な結果と,今年度明らかになった力学的検証結果を踏まえて,シナジー硬化発現のメカニズム解明につなげたい.
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