研究課題/領域番号 |
22K04831
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
八尋 秀典 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90200568)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シアノ錯体 / ペロブスカイト型酸化物 / 環境触媒 / セリウムイオン / 第3成分 |
研究実績の概要 |
令和4年度は4価セリウムイオンを含む金属シアノ錯体から,同イオンを含有するペロブスカイト型酸化物の合成と還元挙動について重点的に検討した.その結果,下記の①から④に関する知見を得た.①原料K3[Fe(CN)6]に金属比が異なるLa(NO3)3,Ce(NO3)3を加えることで,目的のLa1-xCex[Fe(CN)6]結晶(酸化物前駆体)を得ることができた.用いた金属硝酸塩の金属比と得られた複核シアノ錯体結晶中の金属比はおおむね一致することを元素分析により確認した.②得られた複核金属シアノ錯体の熱焼成後の試料の粉末X線回折を測定したところ,x=0.15未満ではペロブスカイト型構造のみの粉末X線回折パターンであったが,x=0.15 以上ではペロブスカイト型構造に加え,蛍石型構造の粉末X線回折パターンが確認された.また,ペロブスカイト型構造に帰属される粉末X線回折ピークはxの増加とともに高角度側へシフトした.これらの結果から,ペロブスカイト型酸化物中にセリウムイオンが固溶していることが推定された.③X線光電子測定から複核金属シアノ錯体の焼成後の酸化物表面には4価のセリウムおよび3価の鉄イオンが存在することが明らかとなった.④水素の昇温還元測定では,400℃付近にCeO2やLaFeO3単独試料とは異なる還元ピークが複核金属シアノ錯体の焼成後の酸化物には認められた.これらの結果を総合してLaFeO3格子の陽イオンサイトの一部にセリウムイオンが置換していると推定した.また,セリウムイオンを含有したLaFeO3酸化物についてシアノシリル化触媒反応(液相反応)を実施したところ,セリウムイオン含有LaFeO3酸化物はCeO2やLaFeO3の酸化物より活性は高く,x=0.11で最大活性を示すことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の予備的実験において,ペロブスカイト型酸化物の前駆体である複核金属シアノ錯体La1-xCex[Fe(CN)6]の合成が可能であることは既に明らかにしていた.本研究において0<x<0.4の範囲において,0.5刻みで複核金属シアノ錯体前駆体を調製し,その焼成後の酸化物の物性評価(粉末X線回折測定,X線光電子測定,水素による昇温還元測定)を特に問題なく予定通り実施することができ,得られた結果からはセリウムイオンがペロブスカイト型酸化物格子中に存在するだろうという新しい事実を明らかにすることができた.得られた結果は2022年度開催の希土類討論会などで学会にて発表することができた.また,本試料に関して東北大学のグループに関心を持ってもらい,同グループとの共同研究を開始した.東北大学のグループには本研究室では実施できない測定を依頼し,特にセリウムイオンがペロブスカイト型酸化物のどのポジションに存在するのかの多面的な検証,セリウムイオンの価数は何かについて検討いただいているところである.以上のように,当初予定された実験が実施されて成果を学会にて発表をすることができたことに加え,共同研究が開始されたことから,「(2)おおむね順調に進展している」,と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,Aサイト置換ペロブスカイト型複合金属酸化物を得る方法を確立する.具体的には以下の三項目について検討を行う.(a)原料,溶媒,条件(温度,pH,撹拌時間など)を系統的に変化させ,異種3核金属シアノ錯体前駆体合成に影響を及ぼす因子を明らかにする.同様な実験を通して,Aサイトに2価および3価金属イオンを含むペロブスカイト型複合金属酸化物についても検討する.(b)得られた酸化物の結晶性を粉末X線回折により調べ,前駆体のどのような物性が結晶性に影響を与えるのかを明らかにする.また,水素による昇温還元反応を行い,得られた複合金属酸化物の酸化還元挙動を系統的に解明する.セリウムイオンを含有するペロブスカイト型酸化物では格子内のセリウムイオンの価数の決定が課題である.これに関しては,東北大学のグループの測定結果と本研究室で行う水素による昇温還元測定の両面から検討する.(c)Aサイト置換したペロブスカイト型複合金属酸化物は,良好な混合導電体(酸化物イオン-電子)となることが知られている.そこで,金属シアノ錯体法で調製した試料について,イオン導電率,イオン輸率について調べ,固体酸化物形燃料電池電極触媒への可能性を探る.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)触媒調製のために購入を予定していた薬品や器具が効率的に利用でき,物品費が抑えられたために,一部を次年度に繰り越す結果となった. (使用計画) 令和5年度の研究費は,触媒調製のための薬品類や各種標準ガスや器具といった物品費および愛媛大学の共通機器の使用料のほか,成果発表のための旅費および学会参加費に使用する予定である.
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