研究実績の概要 |
本研究では、有用物質生産に広く利用される大腸菌の遺伝暗号の拡張と3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)合成能の実装による自在なDOPA含有タンパク質合成法の開発を目的としている。目的タンパク質へのDOPA導入は、アンバーサプレッションを利用して部位特異的に行う。そこで、クロラムフェニコール耐性(CmR)遺伝子の異なる位置にアンバーコドンを挿入した変異遺伝子を複数構築し、翻訳停止によって薬剤耐性を獲得できなくなるか検証した。しかし、何れの変異遺伝子でも野生型遺伝子と比較して明白な違いを確認できず、耐性獲得に基づいた評価は困難と判断した。次に、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を用いた蛍光強度による評価法を検討した。しかし、この場合も明白な違いを確認できなかった。 次に、宿主とする大腸菌を検討した。アンバーコドンを非天然アミノ酸導入用に確保した大腸菌B-95.ΔA株およびB-95.ΔAΔfabR株(Mukai, T., Sci. Rep. 5: 9699, 2015)を前出のGFP変異遺伝子で形質転換し評価した。その結果、野生型遺伝子と比較して蛍光強度が大きく低下しており、翻訳の停止が示唆された。SDS-PAGEでもGFPタンパク質量の減少が確認されたことから、評価系を確立することができた。 芳香族アミノ酸水酸化酵素(TyrH、PheH、TrpH)は、高いアミノ酸配列同一性を示し、同一の祖先から進化を遂げたと考えられており、その過程を進化工学的アプローチで調査している。前年度に取得したDOPA合成能を獲得したPheH変異酵素にはサイレント変異が導入されていた。新たな変異酵素取得のため、複数の細菌よりPheH遺伝子を取得し、エラー誘発PCRで変異ライブラリーを構築し評価した。その結果、DOPA合成活性能の獲得が示唆される変異酵素を取得した。現在、詳細な解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
タンパク質へのDOAP導入には、アンバーサプレッションを利用した部位特異的導入が報告されており、アンバーアンチコドンをもつtRNAとそれにDOPAを特異的に結合する変異型アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)のペアが報告されている(J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 14662他)。このtRNAと変異型aaRSのペアを発現するプラスミドを構築しており、本プラスミドを我々が構築したDOPA合成能を実装した大腸菌に導入し、DOPA含有GFPを合成できるか検証する。この検証は、組換え体の蛍光強度測定と精製タンパク質の質量分析によって行う。この確認ができたら、ムール貝が産性する接着タンパク質合成への応用を検討する。 今回取得したDOPA合成活性能の獲得が示唆された変異酵素は、精製して解析する。新たな変異酵素を取得するためスクリーニングを継続して行う。TyrHやTrpHについては、Tyr要求大腸菌株を用いた栄養要求性相補でTyr合成活性を評価する。
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