研究課題/領域番号 |
22K04853
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
八田 英嗣 北海道大学, 情報科学研究院, 助教 (90238022)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水面上単分子膜 / 相転移 / 2相共存領域 / 等温線 / ナノクラスター / ドメイン / ブリュースター角顕微鏡 / 成長階層性 |
研究実績の概要 |
当該年度は本研究の第一段階として、新規購入した表面圧計をラングミュアトラフシステム内に設置した後、表面圧計の圧力校正を行った。その後、本研究で用いる室温近傍の広い温度領域で1次相転移を示すことが知られているミリスチン酸、および、DMPC水面上単分子膜において、等温線の基礎データ取得のために予備実験として広い温度領域にわたり多数の等温線測定データを得ることができた。その後、これらの取得した各曲線の相転移開始表面圧、ならびに相転移幅の評価を行い、それらの値を先行研究で報告されている結果と比較することにより、妥当な測定結果が得られていることを確認できた。さらに、これらの取得した等温線の品質が今後の研究のデコンヴォリューション解析に十分なものであるかどうかの評価を行った。この評価は等温線データの解析を行うために研究代表者が以前に導出した、データ中のノイズ品質が計算結果に非常に敏感に反映する非線形方程式を用いて行った。その結果、デコンヴォリューション解析において問題を生ずるようなデータノイズは存在しないことを確認した。以上の一連の解析結果から本研究の第一段階、すなわち、研究の第二段階以降で等温線データを用いた数値計算を行う際にきわめて重要となる等温線データの品質確認、ならびにそれぞれの物質における広い温度領域での等温線基礎データの取得を行うことができた。さらに研究の第二段階において行う等温曲線の測定と単分子膜のミクロンスケールのドメイン観察の同時評価のための準備としてブリュースター角顕微鏡のレイアウト、ならびに焦点調整を行った。これらの焦点調整は×5、×10、×20、各倍率の対物レンズとマイクロルーラーを用いてそれぞれの場合に対して明瞭なルーラー画像が得られるように調整を行うことにより行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規購入した表面圧計をラングミュアトラフシステム内への設置・校正後、2種類の研究対象材料であるミリスチン酸、DMPCでの予備実験として1次相転移を示す室温近傍での広い温度範囲にわたり、表面圧-1分子占有面積曲線の測定を行うことができた。また、これらの各取得曲線から求められた相転移開始表面圧、相転移幅は先行研究で報告されている測定値と良い一致を示すことを確認できた。さらに、研究の第二段階以降で行う等温曲線に対するデコンヴォリューション解析が適用可能な等温曲線品質であることの確認を熱力学的評価式を用いて行い、上記解析を行う際に問題となるような許容範囲を超えるノイズ・揺らぎの重畳は見出られないことが確認できた。以上の一連の研究過程を通して、本研究で使用する等温線測定システムの精度、展開溶液の調整手順を含めての単分子膜の製膜過程プロセスの確立を確認するとともに、研究の第二段階以降で必要となる等温線の基礎データ取得を行うことができた。以上のことから、研究の第一段階を完了したものと判断した。さらに、研究の第二段階での等温線と水面上単分子膜のマイクロドメイン観察の同時測定を行うために必要な、ラングミュアトラフ上でのブリュースター角顕微鏡のレイアウト調整、及び、異なる倍率の対物レンズを用いた焦点調整も当該年度でほぼ完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として第二段階では、第一段階で取得した2種類の物質での単分子膜等温線データを基にして各物質の臨界温度と各等温線の測定温度から求められる還元温度を算出し、両物質間でのいくつかの代表的な等価還元温度を選び、それらの各温度で等温線データ、ならびにブリュースター角顕微鏡像観察によるビデオデータの同時取得を行う。その後、研究の第三段階として上記測定で得られた等温線、画像データの解析を行う。ミクロンサイズオーダーでの相転移過程の評価としては等温曲線データとブリュースター角顕微鏡像との対応比較から、レバールールを用いて表面圧の変化に伴う相転移進行度の決定を行う。一方、ナノサイズオーダーでの相転移過程の評価は統計力学的デコンヴォリューション法を用いて行う。この手法では1次相転移領域で共存する液体膨張相、液体凝縮相を形成する各分子の実験的分配函数を等温曲線データが内挿された積分式から決定し、その後、これらの分配函数を用いて上記各相におけるクラスターサイズの表面圧依存性を求める。上記の過程を通して、水面上単分子膜におけるナノ、ミクロンという異なるサイズスケールでの1次相転移過程に関する情報の取得を試みるとともに異なるサイズ階層間での成長進行度の相関に関して検討を行う。
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