研究実績の概要 |
本申請課題では、原子分解能電子顕微鏡を駆使し、局所的・過渡的に変化する分子空間の構造解析手法を確立することで、配位高分子/金属有機構造体(PCP/MOF)結晶の分子空間が示す物理的・化学的性質の起源を明らかにすることを目指している。これまでに、低線量電子線照射下でのPCP/MOFナノ結晶の電子線回折測定における加速電圧・電子線照射量の影響を系統的に評価し、細孔空間の大きさ(被占有体積)と電子線照射損傷に伴う結晶崩壊速度の関係性を明らかにした(Chem. Commun. 2023, 59, 5039-5042, DOI: 10.1039/D3CC00506B)。特に、耐熱性の高い結晶であっても細孔容積の大きなPCP/MOF結晶では、低分子化合物の分子結晶よりも結晶崩壊速度が顕著に速いことが課題であった。2年目では、多孔性結晶における電子線照射損傷の低減または遅延を目的に、種々の化合物が結晶の細孔空間内へ充填された際の影響を詳細に調べた。具体的には、結晶形成過程での混合または含浸法により、低分子から分子量20,000程度の種々の化合物を結晶細孔内にゲストとして包接し、その電子線照射損傷速度を定量的に評価した。その結果、結晶内に包接された分子種やその充填量により、多孔性結晶の電子線照射損傷速度は変化することがわかった。一方、充填したゲストに含まれる元素の種類やゲストの充填量によっては、電子線回折像における非弾性散乱由来のバックグラウンドが顕著となった。一連の成果を踏まえ、次年度以降に多孔性結晶へのゲスト包接による電子線照射損傷低減の効果を明らかにすることで、電子線結晶構造解析への応用を目指す。
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