研究課題/領域番号 |
22K04858
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
新堀 佳紀 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 講師 (20734924)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 配位子保護金属クラスター / 配位子交換反応 / 連結 |
研究実績の概要 |
配位子に保護され十数個程度の金属原子が集合した金属クラスターはサイズに依存した物性を有するため機能性ナノ材料としての応用が期待されている。近年、このような配位子保護金属クラスターを構成単位として集積させることで、単体の金属クラスターとは異なる物性を誘起させる物質創製法が注目されている。しかし、単一配位子が等方的に配位した金属クラスターではクラスター間の相互作用に方向性がないため、構造を制御しつつ金属クラスター集積体を形成させることは困難である。一方、二種類以上の配位子の存在により配位環境に異方性が生じたクラスターを用いれば、クラスター単体の異方性を反映した集積体を創製できると期待できる。 本研究では、金属クラスター表面の目的の配位サイトに極性官能基を導入し、極性官能基間に働く相互作用を駆動力として、金属クラスターが目的の組成・構造に組みあがるようプログラムされたビルディングブロック分子を合成する。このような高機能化された金属クラスターを自己組織的に自在に組み上げることにより金属クラスターを構成単位とした高次構造体の精密合成の実現と構造・物性の相関を解明することで、金属クラスターに対する新たな物質創製法を確立する。 2023年度はターピリジル基が導入された二種類の配位子を合成した。金クラスターの配位子交換反応を利用することでこれら配位子が金クラスターに導入されたビルディングブロック分子の合成に成功した。得られたビルディングブロック分子を溶媒に分散させ遷移金属イオンを添加することで、金クラスター二分子がターピリジル基と金属イオンとの配位結合により連結された金クラスター二量体が合成されたことを質量分析により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書では金属クラスター表面の一部の配位子にカルボキシル基を導入し、これらをビルディングブロックとしてカルボキシル基同士の水素結合により金属クラスターを組み上げることを計画していた。 しかし研究を進めていく中、このようなカルボキシル基間の水素結合を利用した金属クラスターの連結方式よりも、官能基と遷移金属イオン間の配位結合を利用した連結方式の方が、生成物の収量を改善することができ、さらに生成物の安定性も向上させられることを見出した。そこで2023年度は遷移金属イオンと強固な配位結合が可能なターピリジル基が導入された二種類のアルキン配位子を薗頭カップリング反応により合成した。この配位子を塩素(Cl)とホスフィンの二種類の配位子で保護された金クラスターと反応させることによりビルディングブロック分子を合成した。この分子を溶液中に分散させ、遷移金属イオンを添加することで、金属イオンとターピリジル基との配位結合を介した金クラスター二量体を合成した。これまでの方法では金クラスター二量体の質量スペクトルは観測されたがそのイオン強度は微々たるもので、収量が少ないことが課題であった。一方、今年度の成果では、質量スペクトル中に明確に二量体のピークが観測され、生成物の安定性および収率を大幅に改善することに成功した。 これらの理由により、現在までの進捗状況を「(2)おおむね雲長に進展している。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ターピリジル基が導入された金クラスターと遷移金属イオンとの配位結合により二量体が効率よく形成されたが、系内にはターピリジル配位子の数が異なるビルディングブロック分子が混在している。ターピリジル配位子が導入されていない金クラスタ―は多量体を作らず、2個以上のターピリジル配位子が導入された金クラスターは遷移金属イオンとの配位結合によりポリマーが形成されるはずである。遷移金属イオンの導入後は単量体、二量体、ポリマーが混在しているため、これらを溶媒抽出法やカラムクロマトグラフィーなどにより組成毎へ分離する。 金クラスター二量体の純度を向上させたのち、光誘起電荷移動の効率や光磁化率などの物性を評価し、単体の金クラスタ―とは異なる物性を見出していく。また単結晶X線構造解析にも挑戦しその幾何構造を明らかにする。得られた構造を初期構造として密度汎関数法による軌道の可視化と垂直遷移計算を行い、計算で得られた吸収スペクトルと実験値を比較することで、各吸収ピークの帰属を行う。
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