研究課題/領域番号 |
22K04876
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研究機関 | 公立諏訪東京理科大学 |
研究代表者 |
内海 重宜 公立諏訪東京理科大学, 工学部, 教授 (00454257)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブロープ / 捻り / 機械的エネルギー / 摩擦熱 / 超高圧効果 / ナノ空間 |
研究実績の概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)から成る弾性ロープを捻じる時になされる機械的エネルギーの一部は摩擦熱に変換されることが予測される。一方,SWCNTのナノ細孔場は,超高圧効果とナノ空間を持つ。これら摩擦熱・高圧・ナノ空間を利用して,SWCNTロープを捻じるだけで化学反応を誘発し,SWCNT内部でナノスケール材料が簡便に合成できるシステムを開発する研究課題である。 SWCNTロープのみを大気中で捻じり,その構造の時間変化をフーリエ変換型赤外分光高度計(FT-IR)で測定したところ,ケトン基(C=O)に帰属されるピークが時間とともに大きくなることが観測され,SWCNTロープ試料を捻るだけでSWCNTが酸化していることが分かった。SWCNTの酸化には最低でも300-400℃が必要であることから,SWCNTロープを捻じるだけで高温が得られることが示された。 1,2-エポキシシクロヘキサン(ECH)と蒸留水とアセトンを混合した溶液を添加したSWCNTロープ試料を,アルゴンで満たしたグローブボックス内の捻じり試験機にセットし,500 rpmの回転速度で捻じった。捻った前後のSWCNTロープ試料についてFT-IRスペクトルを測定した。捻り前はECH,H2O,アセトンに帰属されたるスペクトルであったが,捻り後のスペクトルは明らかに変化し1,2-シクロヘキサンジオール(CHD)に近いスペクトルが観測された。捻った後のSWCNTロープをアセトンに浸し抽出した白い粉体はCHDのIRスペクトルを示したため,SWCNTロープの捻りによりECHをCHDに化学反応させることに成功したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では次の3点を目的としている。①グローブボックス内の不活性ガス環境下でSWCNTロープを捻じることができる化学反応システムを構築する。②原料試薬を仕込んだSWCNTロープを実際に捻じって化学反応が起きるか否かを実証する。③構築システムを利用して様々なナノ材料の合成を試みる。 目的①について,不活性ガス環境下でSWCNTロープを捻じることができるシステム構築のため,グローブボックス内に収まる小型サイズの捻じり試験機を自作した。さらに,捻じり試験中に起きる化学変化をその場測定するため,捻じりの操作をしながらFT-IR測定できるシステムも構築した。購入予定であった小型FT-IR分光光度計は予算の関係で購入できなかったが,既有のFT-IR分光光度計をアップデートし本研究課題で使用できるようにした。 目的②について,SWCNTロープのみを大気中で捻じることでケトン基に帰属されるのピークが観測されたことから,ロープ試料を捻るだけである程度の高温が得られる実証を得た。また,1,2-エポキシシクロヘキサン(ECH)と蒸留水を添加したSWCNTロープ試料を,アルゴンを充満したグローブボックス内で捻じったところ,ECHの加水分解により生成する1,2-シクロヘキサンジオール(CHD)の生成が確認されたことから,SWCNTの捻りにより発生する摩擦熱,SWCNTの持つ超高圧効果とナノ空間を利用して,SWCNTロープを捻じるだけで化学反応を誘発できることを実証した。 以上のように本研究課題は進捗しているので,おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究で得られた,SWCNTロープの捻りによる高温の発生と1,2-エポキシシクロヘキサンの加水分解についての再現性を十分に確認する予定である。 また,構築したシステムを利用した様々なナノ材料合成の試みとして,金属(Fe,Cu,Co)フタロシアニンを前駆体として金属ナノ粒子の調製を試みる。前駆体の分解はFT-IRで,金属ナノ粒子の生成はX線回折(XRD)により比較的容易に検出できる。特にリチウムフタロシアニンを用いれば金属リチウムが生成し,大気中の酸素と反応して発火することで化学反応が誘発したかの判断を容易にできる。さらに,フェロセンの分解による鉄ナノ粒子やアダマンタンからのナノダイヤモンドの合成も試みる。前者は磁石への吸引やXRD測定,後者はRaman散乱測定で確認できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題申請時に購入を予定していた赤外吸収分光光度計は交付額の関係で購入ができず,既有分光光度計のアップデートを行った結果,計画よりも安く済んだため次年度使用額が生じた。本年度は様々な化学反応の誘発に取り組むため,次年度交付額と合わせて,単層カーボンナノチューブや合成試薬の購入資金に充てる。
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